毛玉

秘密の森の、その向こうの毛玉のレビュー・感想・評価

秘密の森の、その向こう(2021年製作の映画)
4.2
癒しの70分でした。

監督の前監督作『燃ゆる女の肖像』では静かかつ情熱的な女性たちの姿を描写していましたが、本作はガラッと雰囲気が変わっていました。
登場人物がそれぞれに抱える喪失や後悔を、森の奥で起きる不思議な奇跡が癒していきます。
喪失の瞬間は映さず、あくまで事後補完的に喪失の重さや後悔の念が説明されて行きます。本作が優しいのは、その喪失の開示と癒しが同時進行で行われていくからなのだと思いました。
ある種、時空を超えた現象が起こる本作ですが、その理由や、それによって生まれる「未来の記憶」についてはハッキリと明示されません。ですが、明示しないながらも、僕たち観客に少し想像させるような余白を残した展開でエンディングに向かっていくのが美しかったです。

思えば、監督の脚本作である『パリ13区』でも、喪失からの癒しを描いていました。『燃ゆる女の肖像』も、ラストの展開は喪失からの癒しとしても受け取れます。
あまりにも『燃ゆる女の肖像』がパワフルすぎて見落としていましたが、監督の中には、本来は本作のような優しいストーリーが背骨にあるのでしょうね。

ますます監督のファンになりました。
『トムボーイ』をまだ見ることができていないので、次回作が発表されるまでには見たいと思いました。
上映時間はギリギリ長編映画といった具合の70分程度なので、時間が空いたときにふらっと見てみてもいいと思います。
かなりおすすめです。
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