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秘密の森の、その向こうのakrutmのレビュー・感想・評価

秘密の森の、その向こう(2021年製作の映画)
4.5
両親とともに亡くなった祖母の自宅を片付けに来た8歳の少女ネリーが遭遇する幻想譚を描いた、セリーヌ・シアマ監督のファンタジー映画。

強い絆でつながっている娘と母親であっても、世代・年齢から来る超えられない壁がある。祖母を亡くし、自分が生まれ育った実家を手放さなければならず、深い悲しみに暮れている母親に8歳の少女が対等で寄り添うのは難しい。そんなときに、自分と同じ年齢の頃の母親が目の前に現れたら、どんな気持ちになり、どんな行動を起こすだろうか。本映画で描かれるのは、まさにそのような空想上の出来事を通じて、少女が母親に対して示す深い愛情である。

こういう幻想譚を原作なしに脚本として書き上げ、それを審美的に優れた映像に仕上げる能力は、さすがセリーヌ・シアマと言うしかないだろう。72分という時間も、これ以上長くするとどこかで間延びしてしまうことを考えると、ちょうど良い長さである。前作の『燃ゆる女の肖像』もそうだったが、それまでの内容をすべて凝縮したようなラストシーンがとにかく印象的。

そしてなんと言っても、少女ネリーと自分と同じ年齢の母親を演じた双子の姉妹(ジョセフィーヌとガブリエルのサンス姉妹)の愛らしい表情や仕草、そしてどこか大人びた演技が秀逸である。この二人の演技があったからこそ、この映画が成立したと言っても過言でない。久しぶりに心から見てよかったと思える映画である。
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