パイルD3

秘密の森の、その向こうのパイルD3のレビュー・感想・評価

秘密の森の、その向こう(2021年製作の映画)
4.5
滅多に無いことながら、
一度しか観ていないのに、映像のほとんどが頭の中に残っているような映画があって、私にとっては、例えばシンプルで美しく、実は不思議なこの「秘密の森の、その向こう」。
一昨年観たのだが、今でもあらゆるシーンを鮮明に思い出せるほど、深い部分に沁み入ってくるものがあった。

先ずハッとさせられたのが、2人の女の子が並んで、無表情でこっちを見ているポスターのスチールとそのデザイン。
初めて見た時に、思わず二度見してしまう吸引力みたいなものがあった。
ジャケ買いみたいに、ポスターやチラシ、あるいはキャッチコピーの魅力で観たくなる映画もある。

セリーヌ・シアマ監督は、祖母の死をきっかけにして、ごく自然な流れで自分の存在を意識し始めた8歳の少女の夢想空間を、静かな森を舞台にゆるやかにすくいあげて見せる。

その森で 幼少期の母親に遭遇して一緒に時間を過ごすという、ひとつのタイムトラベルストーリー。

亡くなったおばあちゃんがいて、その娘が母親で、更にその娘の自分がいる…
時間も空間も人もつながっている場所、いかにも幼少期に子供が夢想するような世界。
森を抜けて、地続きの異空間を行き来する少女の姿は、生き生きしていてとても愛くるしい。

おばあちゃんの遺品整理の最中に、寂しくなってふと姿を消した母親を、娘はなんとかなぐさめて励ましてやりたいのだが、幼なすぎてその方法がわからない。

冒頭で、母の運転する車の中で後部座席にいる娘が、無言で手を伸ばして母の口にお菓子を入れてやる印象的なシーンが出てくるが、この小さな思いやりの心が母への気持ちのあり方を示していて、なぐさめと励ましの心につながっている。

そして
思わず迷い込んだ、その先にある時間の谷間には、自分と同じ年齢の母が待っていて、なぐさめの言葉や好意で励ますのではなく、一緒に“遊ぶ“ことで大きな癒しをもたらす。

2人の小さな少女が、湖上に浮かぶボートを漕ぐシーンはあまりにも素敵な映像で、目に焼きついて離れない。

シアマ監督の作品の全てに共通しているのは、人が人を思う瞬間の心の中をデリケートな映像として見せること。
物腰柔らかな語り口はあまりにも秀逸で、映像そのものが心に響いてくる。
そのクオリティはかなり高い。

静かな風合いから、ビクトル・エリセ監督の「ミツバチのささやき」を思い出した。
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