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アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイドのbのレビュー・感想・評価

3.9
まあ割と茶番劇なんだけど、あのアルマの最後の矛盾した言動がすべてだろう

終わり方について理解できてない人も見かける。まず
名前のアルマはスペイン語で確か心という意味だったはず。つまり人間であるかそうでないかは心があるかないかであってそれを示すために人間側である主人公にアルマという名前をつけてるように思われるのだけどトムに対してアルマが抱いてるものは愛というより欲望であって、子供や夫を失った喪失をトムで埋めようとしてるんですね。スタンスは「われ思うゆえにわれあり」の対局の考え方にある「われ意欲するゆえにわれある」にあってアルマという名前はなんだか皮肉に思える
そもそも心は目に見えないからこそなのに名前という形になってる時点ですでに形骸化している証を示したかったのかもしれない

でも彼女の最後の言動も含めラストはあまり嫌な感じはしないし、むしろそういう非合理的な面も否定せずにそれもまた「人間」だろうということでどっちかというと肯定的に描いてる。人間ってこういうものじゃないかと。この映画が評価されてるところは(ダンスティーブンス扮する正体不明のジゴロ感があるトムがイケメンというのもあるけど)多分そこだろう
アルマみたいな人は結構いて、世の中にAIが普及していくのももはや時間の問題、そう言いたいのだろう
アルマのトムへの気持ちは愛じゃなくて一緒に少しいれば情がわくというのが人の情というものでさらに彼女の場合は子供を失った喪失からくるもので渇望や欲望といったものに限りなく近いものだけど欲望といったものがわからないトムはそれを愛と捉えてる。アルマはトムのロボットとしての知識に惚れたのか?というと全然違って、そういう愛と捉える純粋なところがまさにアルマがトムを好きになった部分で同時に純粋なところをかつての子供にだぶらせてる。だからトムがいつのまにか大事な存在になっていったと
愛じゃないのだけど少なくともトムの純粋な眼差しがアルマのような孤独でどうしようもない人間のある部分を救ってるラストにはもはやAIに支配されるのではという不気味さはどこにも見当たらない
ツッコミどころ満載とかなんとか言ってる人は理解するすべを逃していて勿体ない

ドイツ映画ということもあってやはり昔にドイツで撮られたゴーレム伝説を扱った映画も意識してる。ゴーレムは人の生活を手伝う目的に泥から作られる泥人形だけど落ちは人に使われるだけ使われて最後は泥に戻るという悲哀あるラストで悲しいものが多い。
倉庫に電池が切れたペッパー君が大量に置かれてるところを想像するとAIを完全に拒絶するラストよりできれば明るい終わり方であってほしいものです

この映画の後はどうなるかと考えられるもので「イヴの時間」のような自我が芽生えてロボットだけのコミュニティーができてる世界や「アンドリューNDR」みたいな「人間って一体どんな感じですか?人間になりたいッス!」とピノキオさながらの事態に繋がりそうではあるけどこれに関してはまだだいぶ先の話
ただアンドリューNDRのロビンウィリアウムとこのなかのトムはオーガズムってどんな感じっすか、と同じ質問をしてるのは面白くて、性への興味=人間への変身願望という点で一致してるところ見るとやはりそこかと思ってしまう。
結局トムは性的な面では股間部にディルドつけてるだけみたいなものだし、まるで不感症のジゴロみたいだ、シュール過ぎる。
やりたくて仕方がないアルマに立ったままのトムが新喜劇のようなノリでズボンを思いっきり脱がされてちゃんと使えるの?と言い寄られてシュメール文字も読めてしまう男が無表情で使えますと答えるのは笑うところだけど、そもそもロボットと性的関係になれるってアルマのように相当飢えてる人かこの手の性癖がある人でもない限り難しいはず、しかしトムがかなりリアルなものだから自然に見えるのが逆に怖いという

この話の面白いところはAIがすで普及した話とかAIが自我を持つ瞬間(フリーガイや地球爆破作戦)を描くよりさらにその前の「いかにして人間社会にAIが普及していくのか」ということを断片的に見せたとこにあってかなりニッチな内容になってる。
絵ずらを狙ってミーガンみたいな変なダンスを唐突にさせないあたりもベルリン映画祭っぽい映画だった。ジャケが灰色を使ってるのもあんまり見ないので目新しい

テーマ的に今やってる「ミーガン」とも共通する部分があるけどあれは小さいころから何でも言うこと聞いてくれるAIがそばにいるということをインターネットで他人との衝突を恐れ自分にイエスしかいわないコミュニティーに引きこもってる子供の延長にあるものとして描くことで小さいころからAIと一緒にいるのは教育的にまずいという裏テーマを持った話だった。chatGTPも意識してるか
アイムユアマンのアルマはラストでなんて言ったか

「ロボットが人間社会に普及するのは反対だ。なぜならそうなると人間はロボットとしか対話せず人間同士のコミュケーションが消失し、人間性がなくなる可能性があるからだ」

(すでにツイッターとか匿名サイトとか基本一方通行のネットが普及してる時点でもうその前段階には入ってしまってるしロボットはまだ普及してないけど人間性が..というくだりはもうすでに多くがという話だけど、ただzoomみたいなものの普及でどこかこのままじゃまずいみたいなのは皆わかってるんだろう)

三週間のあいだテストロボットと生活してこう否定する結論をだしつつもアルマはトムのもとへ向かう
これはアルマみたいな人間関係に絶望してる人は有りとするという落ちでミーガンのような教育面でいけばその通りとしか言いようがない。その辺のコントラストが難しい

しかしやはり孤独をテーマにしたものは女性監督のほうが切れ味があることが多いということは言っておきたい
なかなか面白かった
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