りょう

白い牛のバラッドのりょうのレビュー・感想・評価

白い牛のバラッド(2020年製作の映画)
3.8
 最近観たイラン映画は、モハマド・ラスロフ監督の「悪は存在せず」で、この作品と同様に本国の死刑制度を批判する作品でしたが、4話のオムニバスでした。
 この作品は、社会派でありつつも、フィクションとしての描写が明確なサスペンスとして、かなり欧米的なスタイル(大衆的)でした。この作品ですら本国では上映できないそうで、イランという特殊な国家体制は、あまり専門的な知識がない日本人にとってはほとんど意味不明です。演出、脚本、撮影などは一般的な映画のフォーマットですが、劇伴がほとんどないので(ラストシーンからエンドロールにかけての1箇所のみ)、少しだけアート系の雰囲気もあります。ただ、サウンドデザインがかなり明瞭なので、不思議と音響的な物足りなさがありません。
 映像的にはバランスのとれた作品ですが、物語はかなり辛辣で、あらすじだけでもミナの境遇に同情し、序盤から「もう何も悪いことが起きないで欲しい」と思いますが、いいタイミングで救済してくれる男性がいわくつきという絶望感が辛いです。
 ラストシーンの解釈は二分しているようですが、冤罪と死刑をテーマにしていることからすれば、復讐の連鎖ではないはずだと思います。しかも彼女があれをやってしまったら、刑事司法の範疇では完全な逆恨みでしかありません。
 自分が高校生のころに日本の冤罪事件(当時は現在進行形の係争事件が結構ありました)に興味があって、大学進学のきっかけにもなりましたが、学問的にも死刑と関連してしまう万国共通のテーマです。当然のように死刑制度の存続には反対ですが、日本もかなり閉鎖的に運用していて国際機関から非難されていることは、あまり認知されていません。日本の死刑制度を批判する作品も観てみたいです。
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