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ボーはおそれているのmasososoのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.0
何だこの映画は。比喩表現としてじゃなくてそのまんまの意味で悪夢を見ていたかのよう。漠然とした恐怖とか不快のイメージがハイライトみたいにどんどん迫ってくるんだもん。

開始2分でもう生理的な嫌悪を感じる。気持ち悪い。なんだよあの個性的なディストピア像。おっさんが風呂の天井にくっついてるまでは良いよ、でもそいつの汗が水滴になって存在に気がつくとかキモいって。そいつが暗殺者の顔してたらまだいいけどすんごい申し訳なさそうな顔してるのまじキモいって。なんかこういう根底的な嫌悪を呼び起こすのほんと上手いのねアリアスター。
そこから3時間ずっと不安定で安心できない感覚。
穏やかな食事の風景や感動的な場面でさえ、その直後に訪れるであろう残酷な瞬間のための前振りに思えた。その予感はまあ裏切られない。そして予想の斜め上を行くショックを与えてくる。ずっと、もうずっと。ハイカロリー過ぎるって、、疲れた。

本来この作品のような表現の仕方はあまり好みじゃないんだよな。アッと驚く演出もそこに整合性や必然性を求めたいし、制約の中で制作者が観客を驚かせるロジックを作っていることに納得して驚きたい。何でもありを狂気的とかカルト的って言葉で評価したくないという考え。
でも今作はその何でもありにしても創造性が非凡だったことと、好きじゃないなりにも3時間という長尺を前のめりにさせられたという点で嫌いって言葉では片付けられないな。
愛憎混じった4点って感じだ。
ずっと不安だから緊張と集中を強制されるんだよな。絶叫マシンとお化け屋敷の合わせ技みたいな?ドーパミンの過剰投与?
というかホラー映画がそういう仕組みか。普段見ないからわかんないけど多分それにしても突き抜けてた気がする。

ストーリーは語るようなもんじゃないけど権力者のメンヘラ母ちゃんが持った息子への歪んだ愛情とそれが変質した憎悪。
そこから始まる壮大なドッキリってことやんね。

ラストでボートが沈んだか沈んでいないかくらいで背景の観客たちが席を立ってゲートに向かい始めるんだよね。
ボーの裁判を見せものにしてる時点でお察しなんだけど、熱狂する癖にすぐに興味を失う大衆っていうのが、他人の人生を安全圏からエンタメとして消化してる現代人の気持ち悪さの風刺として鋭さを増してるななんて思った。
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