あくとる

ボーはおそれているのあくとるのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.7
"世界"

本作のレビューは難しい。
そして先に言ってしまうと過去最低のレビューになりました。
本作の感想を書こうとするとどうしても自分語りの駄文になってしまうからです。
それだけ私にとって極めてパーソナルな作品だったのです。

正直本作をコメディとして観たら、笑えるシーンは少ないし、失敗していると思う。
ストーリーは支離滅裂で長すぎるし、好みがハッキリ分かれる問題作なのは間違いない。
しかし、「映画は悪夢であってほしい」と考えている自分にとっては、アリ・アスターに頭の中身を見られているのではと思うほど、何度もあるあると深く納得のできる悪夢の3時間であり、地獄めぐりの旅路であった。
映画として良いとか悪いではなく、ここまで自分に刺さる作品は今後数年は出会えないだろうという特別な作品になった。
劇中のボーのように「これは私の物語だ」と思わず言いたくなる瞬間が何度もあった。

端的に言うと本作はある種の精神病を抱えた人間から見た歪んだ世界に概ね合致しやすいのではないだろうか。
wikiソースだが、様々な精神疾患を抱えているラース・フォン・トリアーの「基本的に人生におけるすべてが怖い」という言葉をそのまま具現化したのが本作と言ってもいい。
自分語りで申し訳ないが、自分は大学院のときにゼミ発表の不安から適応障害になり、検査で発達障害の傾向と診断されて以降、今も精神科に通っている。
正直精神的な病の診断は医師次第であって、鬱だとかADHDだとかハッキリ分かるものじゃないと思っているのだが、自分の最大の問題点は全般的な不安にあると考えていて、前述のラース・フォン・トリアーの発言にとても共感できる。
特に序盤の外の世界全てが危険であるかのような誇張表現は、冗談ではなく自分も「もし隣人が狂っていたら?」「もし道を歩いていて刺されたら?」「もし飛行機に乗り遅れたら?」など、あらゆるものに不安を抱いて生きているし、少しでも周りに不機嫌そうな人がいたらビクビクしている。
具体的な例だと車の運転なんかはとにかく恐ろしい。
自分は親や周りに合わせて合宿で無理やり免許を取ったようなもので、自分の判断の鈍り一つで自分や相手の生命が失われる可能性があると考えただけでパニックになるし、実際辛すぎて合宿をドロップアウトしかけた。
卒業以降はほぼ全く運転していない。
そんな考え方のせいか、見る夢の8割は悪夢である(最近はチルアウトを飲むとよく眠れる気がする)。
つまりボーも私も底なしに臆病者なのだ。
アリ・アスターがどういう考えで本作を作ったのか分からないが、このような世界の見方をする人がいるということを、あなたは孤独ではないと教えてくれたようで、感謝したい気持ちになった。

そして後半のポイントは罪悪感。
ここでいう罪はCrimeではなくSinの意味。
臆病者は誠実で無垢のような態度を取るが、はたして善人なのか?
これ以上はネタバレに関わるのでコメントに。