くまたによしみつ

ボーはおそれているのくまたによしみつのネタバレレビュー・内容・結末

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

映画という膨大な情報量の記憶を整理していくのはいつも困難だ。中でもこの映画は、今まで観てきた映画の中でもカオスティックな光景だった。
まるで悪夢の中にいるかのような体感。
森パートでは、心地良い眠気にまで誘われてしまった。
しかし、それは、眠気と闘うというよりも、意識が浮遊して映画と一体化していくような感覚だった。
初見、オオカミの家の作家陣たちとのコラボで1番見所でもあるシーンで眠くなったことは悔やまれるが、だからといって内容が理解できないということには、ならなかった。
もちろんすべて理解できたのかと言われたら、それは無理な話ではあるのだが。
今作が興行的にうまくいかなかったなどという話は、さておき、とんでもない作品なのは間違いない。
言語化すると一気に陳腐になってしまうような何かを表現しようとしていることは確かだ。
それは、よくあるプロモーション的家族像とも異なる真に迫った何かで、それを正直に描こうとすることは勇気のあることだと思う。
今作には昨今ヒットしてあるような映画におけるカタルシスは存在しない。
3時間付き合わされてそれかよと腹も立つ人もいるかもしれない。いわば「気の利いてる映画」ではない。
しかし映画の細部に至るまで、ユング的に解釈すれば、無限の関連性を発見できる仕組みになっている。
そして本作内ならではの独自のルールと法則が無数に散りばめられてる。
それはそれらは知れば知るほど興味深いものがあるといえる。
テーマは「何もしないことは罪なのか」それを深く問いかけているかのようにも思えてならない。
これだけ今、世界では今不幸な人たちもたくさんいて、不条理なことだらけで結局何もできずにいる。そんなことを目を伏せている私たちに向けて、これは、痛いところを突いてきているのではないだろうか。
ユダヤ人の性質を理解すると本作はより理解できるのかもしれないが、それを理解すると、案外人間自体の本質は、さほど民族や宗教によってそんなに変わらないようにも思えてしまう。少なくとも共感・同情の余地はたくさんある。
それと同時にこれは、「母の呪い」とも言える。過保護な母の愛情は、牢獄とも言え、自由を奪われ、死なない限り掌の中から逃れることはできないほどの拘束力がある。
本作は歯のフロスに至るまで母親の会社のロゴが使われている。これは何を意味するか。

また息子を本人の意思とは関係なく企業のプロモーションに使われてたり、私生活を曝け出したり、それを配信させたりと、皮肉たっぷりに今世の中で起きていることを示している。