ツノメドリユージーン

茜色に焼かれるのツノメドリユージーンのレビュー・感想・評価

茜色に焼かれる(2021年製作の映画)
4.5
朝ドラ『カーネーション』を観て、衝撃を受け、『火の魚』でまた衝撃を受けて以来、
尾野真千子は日本の俳優で一番好きです。
洋画ばかり観ていた私が、オノマチの映画は追っている。

出演作全てを観たわけではないので、にわかファンだけれど(そもそも『萌の朱雀』『殯の森』未鑑賞。いえいえ楽しみに取ってあるのです💦『ユリイカ』『ヤクザと家族』も未鑑賞💦)
オノマチの映画では『クライマーズ・ハイ』『そして父になる』『きみはいい子』が好きです。

ドラマは面白いのもありましたが、やはり映画を期待してしまいます。『きみはいい子』が2015年なので、オノマチの傑作映画が出来ればいいのにナ~脇役はつまんないナ~と最近はしびれを切らしていたところでした。
『茜色に焼かれる』は前評判も良く、番宣やインタビューを読んで期待が高まっていましたが、石井裕也監督作は2作だけ観ていて『川の底からこんにちは』は好きでしたが、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』は合わなくて途中で観るのを止めてしまったので、144分の長さだし、中だるみしないかな。衝撃作って宣伝してるけどホントかな。映画愛はあるので例えオノマチ主演作でもダメならダメとここに書こうとワクワク期待と心配半分でユーロスペースに向かいましたが、杞憂に終わりました。

ホントに重量級の衝撃作だった。

〈ネタバレあり〉

脚本が凄いです。
まず、導入から素晴らしい。
七年前、夫を車で轢いた老人が亡くなり、生活が苦しいのに、あんな奴に《香典1万円》を出してしまう主人公田中良子。そしてそのことが理解できないと悩む息子に「まあ、がんばりましょ。」と励ます感じでもなく、そっけなく息子と自分に言い聞かせるように言う表情から今までにないオノマチがいて震えましたよ。(劇中良子が支払った金額が表示されるのがとても良かった。説明セリフが苦手なので、金額から読み取る良子の暮らしがところどころでグッとくる。)

導入部でこの人何考えてるんだろう。分からない。と興味がわき、知りたくなる。複雑な母なのだ。
これがもし理不尽な境遇に怒る母、泣きながら健気に生きる母など想像しやすい単純な母親像だったら、つまらない映画になったと思う。
交通事故の慰謝料も受け取らず、
夫と愛人との子の為に養育費と義父の老人ホーム代まで払っている。
どんだけ背負い込むんだよ。と思う。ケイちゃんも「養育費払う人なんていませんよ。」と言う。このセリフが気になって帰宅して調べたら養育費を継続的に受け取っている母子家庭の割合はなんと24.3%(平成28年度)で呆然とした。
生真面目で、愚直と良子を笑う人もいるかもしれない。風俗まですることないとも。私も最初はそう思って いた。でも良子はカフェを経営していてコロナによって潰れたことが明らかにされる。2019年までは予想もつかなかったことが起こったのだ。
段々良子は演技によって自分を支え、防御しているのではと感じた。どこか本心を隠している。それがケイとの居酒屋のシーンで7年ぶりに酒を飲み溜めていたものが明かされるシーンの素晴らしさ。ケイ役の片山友希さんが、とても自然な演技でケイそのものとして居てくれて、眼差しが忘れられないです。
とにかく次から次に不幸が連鎖していく、フランダースの犬状態(古💦)綺麗な音楽が流れているので少し救われるが無音だったら頭痛くなったかもしれない。
ただ、良子はゴキブリも殺せない枯れかかった花も捨てないでもらって帰る優しい女だが、どこか強さを感じさせる。何より亡き夫を愛し息子を慈しんで育てている。こんなに働いていたら、疲れてテキトーな料理か惣菜を買ってきそうなものだが質素だが手作りしているし、部屋も片付いている。息子へのイジメも察して学校に乗り込んで行く。どこか人として凄みがあるのである。
それが、昔アングラ劇団の女優だったと明かされ勝手に私の期待が高まる(笑)

そして怒濤の終盤。
恋する良子は裏切られ
住んでいる家からも追い出されるように出て行くはめになる。

私は辛いことが重なる不幸の連鎖があるのも知ってる。
そして、幸せが倍々でくるのも知ってる。

最後、怒ることができた田中良子とちゃんと大事なことを言葉で言えるいい漢に育った息子はもう大丈夫☺

茜色の空に希望が灯っていた。




だれずに面白いし、演者は皆
最高。息子役の和田庵くんは頭よしよししたくなるほど、純平にはまっていたし、オダギリジョーは色気ダダ漏れだし、永瀬正敏さんは流石すぎた。

ただ1点、残念だったのはイジメる子達の描写がガキすぎる。
あれじゃ中学生というより小学生のイジメだと思う。もっとバレにくいやり方で陰湿だと思うんだよね。

コロナ、貧困、シングルマザー
性虐待、子宮頸がん辛いことばかり盛り込みすぎとも思ったが、観ながらこれは石井監督のメッセージ映画なんだなと思った。
とにかく伝えたい!という熱量が凄まじいです。

ラストも賛否あるようだけど、
荒削りなのが、石井監督の持ち味なんだろうな。あの終わり方が確かに田中良子らしいかも。

最後に尾野真千子映画としては満点です‼️


おこがましいのですが、最近のオノマチの演技が少し記号的に見える時があって、残念だったのですが、(それはオノマチだけの問題ではなく脚本やその他の問題も絡んでくると思いますが・・・それに充分上手いのですが、オノマチはこんなもんじゃないぞと思っていたものですから・・・偉そうにすみません💦)よくぞ、こんなに複雑で魅力的な田中良子さんを産みだして下さり、監督の演出力に感嘆しました。パンフレットを読んで感動しましたが、スタッフの団結力も原動力になったでしょうね。

オノマチは母親役は自信ないって言ってましたが、この映画はまぎれもなく母でした。いい映画でも、あ~良かった面白かったで頭の中からすーっとなくなることが多いのに、観終わって1週間経つのにまだ良子さんのことを考えているのです。

田中良子は小原糸子と並んで、心の中に居続けるでしょう。