SANKOU

悪い奴ほどよく眠るのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

悪い奴ほどよく眠る(1960年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

役人は上司を裏切ることができないという台詞があるが、真の黒幕だけがのうのうと甘い蜜を吸って生きていけるこの世の中の仕組みを大胆に描き出したものだと思った。
というよりも悪の親玉が一人いるのならまだ分かりやすい構図だが、果たしてどこに悪の根源があるか分からないというのが実際の問題なのかもしれない。
ある土地開発公団の重役岩淵の娘佳子と西という男の結婚式で幕を上げるが、式の途中に課長補佐が警察に連れていかれたり、多数の記者が式場を囲んでいたりと異様な光景が広がる。
そして岩淵に守山、白井という三人の重役の何かに脅えたような態度。ケーキ入刀の段取りになって現れたのは、ビルを型どったケーキで七階の窓に赤いバラが刺さっているものだった。それはかつて公団の課長補佐古屋が飛び降り自殺をした場所を示していた。
「こんな面白い一幕ものは初めて見た」「これはまだ序章に過ぎない」と語る記者たち。
警察で尋問を受けた三浦が、まず何かに脅えるように車に飛び込み自殺、そして和田も同じように火口に出向き飛び降り自殺をしようとする。自らの意志ではあるが、まるで口封じのために殺されたかのようだ。
和田の自殺を止めたのは結婚して岩淵の秘書となった西だ。
そのまま和田は自殺したことになり、盛大な葬式が行われる。その様子をこっそりと車の中から見つめる西と和田。
そこへ現れたのは守山と白井の二人。彼らが現れたと同時に、西は昨夜料亭で二人が会話した内容を録音したテープを流す。
二人は和田が自殺したことに安堵し、彼を嘲笑している。
目的はまだ分からないが、西はどうやら岩淵、守山、白井に復讐を果たそうとしている。
まずは白井を罠にはめて、金を持ち逃げしたように見せかけた後に、何度も和田の姿をちらつかせて精神的に追い詰める。
この和田の姿を見て、徐々に正気を失っていく白井の姿が凄惨だった。気が狂って何もかも話してしまわないように、宴の席を設けて彼をなだめようとする岩淵と守山。
しかし、かつて古屋を追い込んだ側の白井は、その時と同じような状況なのに気づき、自分も消されるのだと騒ぎ出す。
守山に白井を送らせた後に、殺し屋を雇って始末してしまおうとする岩淵の姿に、初めて彼の本気の闇の部分を見る。
始末される寸前の白井を助けた西は、彼を古屋が自殺したビルの同じ部屋に連れ込む。そして、自分が本当は古屋の私生児で、板倉という男と戸籍を取り替えたのだと告白する。
彼は復讐のために白井を殺そうとするが実行はしなかった。
板倉と和田を前に、自分はまだ甘い、怒りが足らないと反省するが、和田は自分も彼らのためにひどい目にあったが、西の過激なやり方にはどうしても賛同できないところがあった。
佳子の兄辰夫は、西の男気を買ってはいるが、結婚式のスピーチで「佳子を幸せにしなかったら殺すぞ」というぐらいに佳子のことを思っている。
復讐のために佳子を騙したような形になってしまった西だが、しかし彼は本気で佳子を愛してしまっている。グラスを落としてしまった佳子を気づかって、真っ先に彼女の元に駆け寄り抱き締める姿に心がじんとなった。
辰夫も薄々自分の父親が、あまり表には出せない悪いことにも手を出していることには気づいているが、バーベキューでエプロン姿で家族のために肉を焼いている姿を見ると、とても悪人には見えないと思う。
事実岩淵は娘の佳子に対してもとてもいい父親だ。どんな悪人でも、優しくしたいと思う相手はいるものだ。
正義を掲げてはいるが、彼らに復讐しようとする西も悪人ではないと言いきれるのだろうか。
守山の手によって西は古屋の私生児だとバレてしまうが、西と板倉は追及に来た守山を逆に拉致して軍の工場跡地に閉じ込めてしまう。守山から横領した金の隠し場所などを白状させ、自分たちは自首をする。これで公団の悪事は全部暴露されるという算段だった。
どこまで行ってもお人好しの和田は、自分が騙されたままだと思っている佳子が不憫で、何とか西の本当の気持ちを聞かせたいとこっそり電話で彼女を呼び出す。
後ろめたい気持ちがずっとあっさりと西は、再会した佳子を抱きしめ口づけを交わす。
何とか悪事を行った父に罪を償ってほしいと思う佳子だが、西を気遣うあまりに、岩淵に騙され彼の居所を教えてしまう。
自分の娘に対しても悪事を行うのか、鏡に写った自分の姿を見ながら、躊躇する素振りも見せる岩淵だが、結局は心を鬼にしてしまう。
父に騙されたと気づいた佳子が辰夫と共に工場跡地に向かった時にはもう手遅れだった。
跡地でうなだれる板倉の口から出たのは衝撃の事実だった。西はアルコールを注射され、車に乗せられそのまま貨物列車に飛び込んだ。和田も守山もおそらくは消された。戸籍を取り替えた自分には何も立証することが出来ないと絶望に暮れる板倉。
あまりにも唐突に悪の力によって途絶えてしまった復讐と西の人生。そして、目に見えない敵の存在がこれほど不気味で恐ろしく感じたことはない。
そして、悲しいのは例え岩淵を摘発することが出来たとしても、彼が巨悪の根源ではないということだ。彼自身も利害関係で結ばれている誰かのために働いているに過ぎない。
西の死と父の裏切りによって正気を失ってしまった佳子を連れて、自分たちはもうあなたの子ではないと岩淵に突きつける辰夫だが、子供たちを失っても尚生き方を改めることの出来ない岩淵はもう、心の底まで悪に浸かってしまっているのだと思った。
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