ミスター

ヴォイジャーのミスターのレビュー・感想・評価

ヴォイジャー(2021年製作の映画)
2.1
地球と同質の惑星への移住のために宇宙船に乗った若者たちが閉鎖空間の中で徐々に壊れていく話。
宇宙を舞台にした蝿の王という感じ。ただそこに一工夫されているのは、この若者たちはあくまで自分たちの子ども世代が惑星で暮らせるというだけで、ある意味では捨て石になっているという点。それを考えれば若者たちが怒り狂い、秩序が崩壊するのも当然であり、だからこそ青い薬品で若者たちを従順にしていたわけで、なかなかに酷い大人たちの考え方と言える。人権団体はこの時代には淘汰されていたとしか思えない被人道的な実験を大人のエゴとするなら、そこからの反発という若者のあり方を風刺していると見てとれる。
あまり高評価にできない理由は2点。まずは宇宙という要素を生かせていない点。舞台がそのまま山荘の実験設備になっても問題ないぐらい宇宙っぽさがない。いっそ本当にエイリアンが出るくらいであればよかった気がする。そして2点目は結末のシンプルさ。元凶である若者一人がいなくなっただけで秩序が回復するのなら、最初から暴走しなかったのでは…理性的な黒人女性の射殺というセンセーショナルな瞬間は完全にスルーされたのに、暴徒のリーダーが死んだという事後報告だけで全員が理性を取り戻すというのは不自然。人間の心理の暗部を描くのがコンセプトならもう一捻り欲しかったという印象。

盛り上がりには欠けるが、宇宙を舞台にした閉塞感とそこから生まれる息苦しい人間模様を楽しめる人にはおすすめの佳作。
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