棟梁

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎の棟梁のネタバレレビュー・内容・結末

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

 水木しげる生誕100周年の記念にふさわしい作品だった。

 小学生のときに漫画版とアニメ版の「ゲゲゲの鬼太郎」に触れて以来だったが、2024年のいま観ても懐かしさすら覚えてしまう作品の雰囲気づくりであったと感じる。それは、横溝正史作品に出るような因習がつづく村が舞台であることにも一因があるのかもしれない。いずれにしても、104分のアニメ作品であること脇においても、素晴らしい作品だった。

 舞台のおどろおどろしさや怪奇殺人、主人公とヒロイン(?)との交流、主人公とゲゲ郎(こちらがヒロイン(?))とのバディ物的展開など、見どころも多くある。だが、作品が一貫して伝えているものこそに目を向けたいと思うのである。
 
 本作に通底するのは、「反戦」と「パターナリズムへの対抗」である。先の大戦における大日本帝国の権力構造が下部への責任の押し付けの連鎖であったことは、丸山眞男が「超国家主義の論理と心理」で分析しているところであるが、原作者の水木が戦時中に直に体験しているところである。この点、作中での水木のフラッシュバックが印象的である。すなわち、水木は戦地にて上官である将校から「総員玉砕」を命じられるものの、当の将校は「司令部に戻って報告する任がある」と強弁している場面である。

 作品を通じて、天皇を頂点とした国体へのメタファーを随所に見ることができることを評価したい。それらは、冒頭の頂点眼(金魚の品種)、高度成長期の企業戦士、(家制度の象徴としての)龍賀家、血液製剤Mと幽霊族・怨念から生じた狂骨などである。天を仰ぐかのような異形の金魚は国体の構造を示唆するし、責任の押し付けの連鎖はその舞台を企業に移しただけであることもうかがえる。また、多数者の利益のために他者である幽霊族から血液を搾り取ることも、無視できない。

 作品終盤の現代パート、狂骨となり果てた長田時弥に目玉おやじが語りかける場面がある。70年近く経ってもなお、時弥が夢見ていた日本は実現していない。奥平康弘がその存在を指摘し、剔抉(「えぐり出す」)しなければいけない対象だとした「うちなる天皇制」は、戦後から反省されることもなく、2024年の今も存在することを本作で再認識させられた。
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