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そして僕は途方に暮れるのEPATAYのレビュー・感想・評価

そして僕は途方に暮れる(2022年製作の映画)
3.9
《現実逃避型》エンタテインメントという謳い文句に相応しく、藤ヶ谷太輔が逃げて逃げて逃げまくる駄目男ロードムービー。

基本的には主人公が一緒にいる人に怒られて、逃げて別の人の家に転がり込んでまた怒られて......を繰り返すだけの、概要だけ聞くとなんじゃそりゃと思うお話。

なんだけど、これが観ててすごく惹き込まれる。まず、主人公の駄目男っぷりがいい。クズでもアホでもなくてホント“駄目男”なんだよね。

始まりは一緒に暮らしている彼女に浮気を疑われたことでビビって逃げ出すんだけど、観てるこっちからしたらそれで逃げ出す意味がわからない。浮気自体はクソだけど、まだ疑われてるだけの状態なのに誤魔化すでも謝るでもなく、一目散に家出して逃げ出す。

これはもしかして浮気よりもヤバいなにかを隠しているサスペンス映画なのか?って思って見進めていくと、転がり込んだ親友の家でもあまりのだらしなさに怒られて逃げ出す、その次の家でもさらにその次の家でも......

あれ?これまじで駄目人間なだけ?って思い始めた頃からどんどんおもしろくなってきやがる。

このクズまではギリギリいかない絶妙な駄目男っぷりの塩梅があるから、自分もちょっと主人公に重なるところあるんじゃない?と思っちゃうし、段々主人公側にも共感してきちゃうという。

先述した通り、展開は知り合いの家を訪ねては逃げ出すを繰り返すだけなのだが、毎回逃げ出すときの主人公の感情が違うのもおもしろかった。

畏れだったり、罪悪感だったり怒りだったり悲しみだったり......ここが同じ繰り返しでも飽きない要因である。たった1つの行動だけでここまで喜怒哀楽を表現できるのかと感心もさせられる。

そしてまた、藤ヶ谷太輔の表情の作り方が上手い。同じ顔の振り向きに見えるけど微妙に表情が違うっていう塩梅が絶妙だし、これがラストのリフレインにも効果を生んでいてるから気持ちいい。

ジャブの打ち方が完璧。

そうやって、徐々に主人公を見る視点が主観から俯瞰なっていって、いよいよラストに差し掛かった瞬間、観客の自分たちさえ俯瞰で見ざるをえない仕掛けがくる。

言ってしまえば、映画鑑賞だって現実からの一種の逃げなわけで、もう映画終わっちゃうけど君たちはどうするの?と問いかけられているようなあの表情が抜群に良い。
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