すずきじみい

仕掛人・藤枝梅安のすずきじみいのレビュー・感想・評価

仕掛人・藤枝梅安(2023年製作の映画)
3.8
監督: 河毛俊作
脚本: 大森寿美男
原作: 池波正太郎


どうしても緒形拳さんの梅安と比べちゃうので、観ない事にしてたけど、観て良かった。最近あまり見れない「The 時代劇」を観れた気分。
脚本が、当時、大河ドラマがフェミニンファンタジー大河になってしまった時代に『風林火山』で骨太大河に戻してくれた大森さんってだけある。

梅安の情婦おもんは菅野美穂さん(この人は影がない)ではなく瀧内公美さんみたいなちょっと寂しさとか業が滲ませられる女優さんの方が合う様な気がするな。
それとも原作では清純派なんだろうか。

おみのも、あーいう役柄なら、演技巧者だけど、どうしてもキリッとした男気みたいのが見えてしまう天海祐希さんじゃなくて情婦(又は毒婦)の色気と言ったらこの人な高岡早紀さんが演ってくれた方が説得力あると思った。

又、なかなか本格的かなぁと思ったけど、掛け布団は現代と同じ物で拘りがなかったな。

寝る時の掛け布団て、江戸時代の後期までは上方を除いては、今みたいな長方形の布団ではなく、かい巻きか上着の着物を掛け布団にしてたそうで、調べればネットでさえすぐ分かる史実であるが、TV時代劇はもちろん、大河ドラマでさえ今と同じ布団が使われている。
でも、家具調度品の一つ一つまでこだわって作られたという『SHOGUN 将軍』は流石!
(袖をはっきり確認してないけれど)掛け布団じゃなくて着物をかけてたように見えた。

三池崇史監督の作品は本格時代劇なんて全然思われてないけど、寝床では掛け布団じゃなくしっかりかい巻きをかけてて、位の高い武家の奥方も眉を落としてる。
意外にも他の作品よりよっぽど時代考証に拘ってる。

ま、時代考証通りに作ってくれなんて言ったら、江戸時代の既婚女性は全部、お歯黒で眉なしで出てないといけなくて、そんな女性達ばかりの作品は観たくないとそっぽ向かれるだろうから、事実通りに作らないのだろうけど、でも掛け布団をかい巻きにするぐらい、画面の醜悪にも何の影響もないので、かい巻きでやってたら、
「おっ、拘ってる〜!すごい本気!」
と評価が上がるのになぁと変わり者の偏屈ばあさんは思った。

でも、片岡愛之助さんの、タメを作った時代劇の台詞の喋り方やナレーション、高畑淳子さんの、昔は鷲尾真知子さんの十八番だった“ザ・長屋のおかみさん”もほんとに昔の時代劇の香りがぷんぷんしてて、江戸時代を観てるんだという気分に浸らせてくれた。
舞台やってる人達は時代劇やると、すっとその世界に馴染んでハマるって思った。

新しい描き方じゃなく昔っぽいのに惹かれてしまう、最近のライトな時代劇を堪能できない年寄りを十分楽しませてくれた。

後、最初すげ笠を被ってる早乙女太一を見た時、若い頃の真田広之かと思った!そっくりだった。直後に始まった殺陣を見たらますます思った。しばらく幸せだった。

クレジットの後のシーンを見て思ったのだけど、日本の時代劇って、白黒で観た方が凄みと情緒が倍増すると思った。