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ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールドのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.0
 ザ・スミスの名曲の数々がスクリーンで聴けると聞いて観に行ったがう~んこれは何だろう。確かにスミスの名曲は20曲近く流れるし、モリッシーやジョニー・マーの動画も途中に含まれるのだが、スミスとは何の関係もない若者の青春群像劇が始まり、唖然とした。場所はイギリスのロンドンやマンチェスター、リバプールでもブリストルでもなく、コロラド州のデンバー。スーパーで働くクレオ(ヘレナ・ハワード)は、大好きなザ・スミス解散のニュースに絶叫し、この世の終わりのような表情を見せる。レコードショップの店員ディーン(エラー・コルトレーン)はレコード店の店頭で1日中スミスをかけながらバンドを弔うのだ。彼はクレオをデートに誘うが、友達が軍隊に入るので仲間と集まるからと出かけていく。孤独になったディーンはピストル片手に、地元のヘビメタ専門のラジオ局にザ・スミスの曲をかけろとDJに銃を突きつけるのだ。ファンでもない私はまったく知らなかったが、ファンの間ではよく知られていたるという「スミスファンのラジオ局ジャック事件」に着想を得た物語は、孤独な少年少女の奇跡のような一夜を紡ぎ出す。

 あえて良く言うとすれば、これは21世紀の『アメリカン・グラフィティ』だ。自分自身の将来や未来に対する漠然とした不安、親の敷いたレールを歩くことへの葛藤、そして淡い恋心とハートブレイク。心に茨を持つ少年たちは、アメリカの片田舎の言いようもない苦しさの中で、遠く離れた海の向こうのバンド「ザ・スミス」に恋焦がれる。意地悪な言い方をするならば、別にザ・スミスである必要などなく、ボンジョビでもドッケンでもモトリー・クルーでもエアロスミスでも彼らの苦しみを代弁してくれているなら良いのだけど、どういうわけか少年たちはモリッシーの紡ぎ出す歌に自分自身を重ね合わせる。ラジオ局をジャックしたディーンが流すスミスの曲に併せて物語は進むのだけど、厳密には物語と曲世界は必ずしも一致しておらず、曲に付随したイメージとしても陳腐で退屈で、この企画を通した制作会社の意図が最後までさっぱりわからない。リチャード・リンクレイターの『バッド・チューニング』よりも遥かに大人しい少年・少女の物語は、たかがラジオ局を一晩ジャックしてスミスをかけ続けたことで思春期の憂いが消えるなら、一ヶ月に一回くらいガス抜きし続けてやって欲しい。ついでに粋なラジオDJとジョイント廻しながら、ビールで乾杯したい。これはザ・スミス・ファンにも、青春群像劇のファンにもどちらのファンにとっても誰も得しない中途半端な仕上がりだ。
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