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アンガー・ミーのSのレビュー・感想・評価

アンガー・ミー(2006年製作の映画)
3.5
イタリア人映像作家エリオ・ジェルミーニが、生と死をテーマに作品を作り続けたケネス・アンガーの遍歴と映画術を捉えたドキュメンタリー。

ジェルミーニ監督自身がアンガーへ行なった出生から現在までを語るインタビューを軸に、アンガーの盟友ジョナス・メカスへのインタビューや豊富なアーカイブ・フッテージにより構成。

2023年5月11日に96歳で亡くなったケネス・アンガー。手がけた映像は精神世界を投影した難解なものが多く、実験映画とよばれ、カルト映画、アンダーグラウンド映画として紹介されることも少なくない。

アンガーの遍歴は非常に興味深いものである。生い立ちは、末っ子として産まれ、家族は代々、空港職員だった。アンガーもその道を期待されたが、幼少期からアーティストを志す。少年時代に『真夏の夜の夢』に出演したことをきっかけに映画の道を志し、インディペンデント映画を学ぶためにヨーロッパに赴く。フランスのシネマテーク・フランセーズ創設者アンリ・ラングロワと出会い、シネマテークで約10年働いた。多くの未編集フィルムが保管され、その中のセルゲイ・M・エイゼンシュタイン『メキシコ万歳』の編集を行う。
フランスでは、ジャン・コクトー、フランソワ・トリュフォー、マヤ・デレン、イタリアへと移り、ヴィスコンティ、フェリーニ、パゾリーニらと交流を持ったという逸話をはじめ、『マジック・ランタン・サイクル』収録作品の舞台裏が饒舌な語り口で綴られる。
映画の最後でアンガーは「私は映像詩人だ。コクトーが生み出した流れを喜んで継承する。生は死と同じくらい神秘的だ。どちらも誰にも解けない謎だろう。」と語り、アンガーが最も敬愛する二人、ジャン・コクトーとアンリ・ラングロワを強調している。

本作の魅力として、ケネス・アンガー自身の語りとインパクトである。背景に作品の映像をコラージュしたケネスの大々的な顔のアップと、その作風からギャップを感じるほどに温和そうな人柄が全面に出ている。
ジョナス・メカスの顔は、正式に初めて観たかも知れない。メカスはかつて(80年代か)名古屋シネマテークを訪れたことがあるようだ。
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