kazuuu

コーダ あいのうたのkazuuuのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.0
才能ある主人公と閉塞的な田舎町。そして家業の為に、という理由で、悪気なく主人公を縛る家族。かつては「遠い空の向こうに」や「リトルダンサー」、最近だと「カセットテープダイアリーズ」等、数々の名作を生み出してきた設定だ。それら作品と比べて今作で特徴的な事は、主人公を除く家族全員が「耳が聞こえない」という障害を持っている、という点だろう。

自分一人だけ耳が聞こえる、という一家で育った主人公は、家族に頼られて生きてきた。そんなある日、歌という自分の才能に気づく。自分が居なくなったら大事な家族がどうなるか、という不安と、歌で進学したい、という間の葛藤。熱く指導してくれる先生との対話、家族との手話を通して、観ているこちらにその葛藤が伝わってくる。

そして、主人公の持つ才能が、家族が聴くことのできない「声」である事も、設定として新しい。
主人公の素晴らしい歌声と曲には心動かされる。
そして、耳が聞こえない為、聴くことができない歌声の素晴らしさを家族の面々が認知する演出は、この映画のハイライトシーンだろう。

また、耳が聞こえない、という障害をあえてフラットに、リアルな人間の生活の中で捉えている点もよかった。虐げられて可哀想な人、ではなく、仕事をして、酒を飲み、セックスもする普通の人として捉える事は、余りハリウッドでは観られないように思える。
実際に耳が聞こえないキャストを選んだ事も、この辺りのリアルさを生んでいると感じた。

社会的なテーマの中で、家族愛に満ちた物語を描いた素敵な作品。
kazuuu

kazuuu