「あなたが生まれたときーー』に続く母の言葉の衝撃。
漁師を営む聾者の家族に唯一の聴者として生まれたエミリア・ジョーンズ演じる末娘ルビー。
父は優しくもあるが、粗野でエミリアの友だちに対して下品な下ネタを手話で発する。
兄は、耳が聞こえなくてもバーでケンカするわ、美人のバーテンをラインでナンパするわと活発。
母は、元ミスコン?の優勝者でちょっと天然入ってる美人。
聾の生活が静謐なんてとんでもない。
手で音を出し、食卓はガチャガチャと騒がしい。振動が感じられるとカーステでは大音響で音楽をかける。マジうるせえ。
ありえないほどのノイズに囲まれたルビー。
そんなある日、彼女はちょっとしたきっかけで合唱クラブに入る。
と、音楽教師に歌声の才能が認められ、音大への進学を希望するが、それには個人レッスンなど時間が必要だ。しかも『歌』を家族に理解してもらうのは至難。
以降、ただでさえ早朝から起きて漁を手伝う彼女の生活は更なる多忙を極める。
聞こえて話せる彼女は、唯一家族の外交官だからだ。家族を搾取から守らなければ、自分の生活も危うい。
末っ子らしい溌剌さよりも、生まれながらの大黒柱としての根性を優先せねば生きてはいけない宿命が立ち塞がる。
その上、家族愛という言葉で彼女の献身はすべてはオールフリー。
特にマーリー・マトリン演じる母親の天然さが際立つ。
あるシーンで『あなたが生まれた時ーー』というセリフが母から娘に語られた時、私は泣く準備を整えていた。
なぜなら全ての母親が我が子にこう切りだした時、続くのは祝福か愛の言葉だ。
ともかくあなたを全肯定する言葉が続くはずなのだ。母親にとって最強のカードみたいなものだ。
しかし、この母は言い放つ。
『ーー耳が聞こえると知り落ち込んだ。理解してあげられないから。』と。
、、、、どうした、鬼畜大宴会開催か。
そう、最大の祝福は、翻せば最悪の呪詛にもなるのであった。
しかし同時に、聴者である私たち観客は、聾ということで彼女を同情することを許されなくなる。
自然に、しかし律然と。
この母親像は新しかった。
完璧な母親なんて実際稀有だ。
だから言っちゃいけないことも時として言ってしまう。とりわけ娘に。
しかし、こどもはたくましく成長する。
こどもを愛していること、時としてこどもを手放すこと。
これさえできれば、子育てギリ行けるのかな。
と希望を持った2児の母の感想でした。