かぴばる

コーダ あいのうたのかぴばるのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
4.6
 昨年度のアカデミー賞作品賞その他に輝いた作品。そこまで高い評価を得ているなら……とかなり期待して観たが予想以上の出来。

 ストーリーとしては、ろうの家族の中でひとりだけ健聴者として生まれた主人公が自分の歌の才能を見出され、自分の夢と家族の生活とに板挟みになりながらも羽ばたいていく……というあらすじから予想できる以上のことは起こらない。だがとても良い。見せ方が抜群に上手い。

 特にコンサート以降の演出は見事。ルビーのデュエットのシーンで、ろう者の家族の視点として完全な無音になるが、あれほど息の詰まる無音はこれまで映画で感じたことがなかった。不安という言葉を使わずにここまで不安が表現できるとは。そこからの、星空の下でルビーの歌声を全身を使って感じる父のシーン。もうね。

 「ろう者ジョーク」みたいなものも全編通じて盛り込まれており(先のシーンの間に挟まる〈ファックできて光栄です〉もまた名シーンである)、物語の緩急の付け方も極めて優れている。最初から最後まで文句なしに面白い傑作。