全世界の人々に観てほしい一本。黒人への差別意識をぬぐえない人でも共感できるよう、深刻なヘイトクライムをユーモアあふれるタッチで描いている。それだけに切なく、哀しい。
タイムスリップするたびに、白人警官に殺される主人公。殺され方は首を絞められたり、撃たれたりと、毎回違う。そう、実際に起きた白人警官による黒人殺しをモチーフにしているのだ。
あのジョージ・フロイドさんの絶命直前の叫びも、主人公は口にした。
「息ができない」
この事件への悲しみと怒りは、血の通った人間であれば、人種民族宗教にかかわらず、共有すべきだろう。殺されたのは、私たちと同じ人間だった。殺した側も、人間だった。
日本にも、民族やジェンダーを巡る深刻な差別が横たわる。そして私たちマジョリティーは「差別はいけない」と言いながらも、事態打開に動こうとしない。私たち人間は例外なく、かくも恐ろしいヘイトクライムに手を染める生き物だという事実を、胸に刻む必要があると思う。
主人公の役者さん、レイシスト警官の役者さん、見事な演技でした。肩が凝らないストーリーなのに、ヒューマニズムの大切さを思い知らされる、傑作短編映画だった。