真一

福島:原発物語の真一のレビュー・感想・評価

福島:原発物語(2015年製作の映画)
3.9
 このドキュメンタリー作品🎥をみて、あのフクシマ☢️の本当の恐ろしさと、そこから教訓を得ようとしない日本🇯🇵という国の実態を、思い知らされた気がする。たった1人の外国人ジャーナリスト🖊️の取材をもとに制作した、90分にも満たない作品であるにもかかわらず、です。エンタメ重視の「FUKUSHIMA50」🎬️と異なる、客観報道📰をベースにした秀作。

 フクシマへの粘り強い取材を続けているのは、日本滞在歴が30年を超えるイタリア人特派員🇮🇹のピオ・デミリア。東京電力福島第一原発事故☢️が首都圏🗼を「死の街」にするほどの規模にならなかった理由について「単なる偶然」と断じる。屋外に露出していた4号機の核燃料☠️がメルトダウン💥を起こさなかったのは、夢のような奇跡だというのだ。

 当時の菅直人政権は確か、水位が下がった4号機プールで空だき寸前になっていた核燃料棒☠️を冷やすため、自衛隊ヘリ🚁を使って上空から海水を撒いたはずだ。多くの国民👥がテレビ📺️の実況中継に釘付けになり、事態を見守った覚えがある。そして、この注水🚰が功を奏したことで核燃料棒☠️は冷却化し、首都圏壊滅は避けられたというストーリーが何となくできあがっていった気がする。だが本作品は、こうした見方を否定する。

 核燃料棒☠️が首都圏を「死の街」に変えるようなメルトダウン💥を起こさなかった理由について、デミリア記者👤は、関係者の証言や報告書をもとに、4号機プールの水位が予期しない形で上昇したためだと結論付ける。水位が下がりつつあったプールAの隣には、満水状態のプールBが併設されていた。このプールBの冷却水🚰が、地震の揺れの影響で、偶然にも、危機に陥っていたプールAに流れ込んだ🌊というのだ。プールAにおける起死回生の水位上昇に関し、本作品は、二つのプールの間にある隔壁が地震で壊れるという「想定外のトラブル」によってもたらされた奇跡だ、と表現している。

 これが本当かどうか、ネットサーフィンしてみたら、ヒットした。「現代ビジネス」が2021年3月に出したNHKメルトダウン取材班の検証記事に、同様の記述があった。この記事は「4号機プールの水が干上がらなかったのは、たまたま隣接する原子炉ウェルの仕切り板に隙間ができて、大量の水🚰が流れ込んだおかげだった」と報告している。デミリア記者の取材結果と全く同じだ。本作品が出たのは2015年。記者クラブに籠もった日本メディアを横目に、早い段階でファクトを固め、しっかりピントを合わせたデミリア記者👤の能力と経験値の高さには、驚くしかない。

 本作品は、高収入と引き換えに放射線を被曝し続ける下請け労働者😖の姿や、原発再稼働☢️への動きを加速させる後の安倍政権の動き、地震と原発で人生を台無しにされながらも怒りを表さずに黙々と生き続ける住民😞の様子も収録。ヒロシマとナガサキにも触れつつ、被害を受けても勝者や権力者に従う日本人🇯🇵のメンタリティーを浮き彫りにしている。取材を受けた被災者たちが「イタリア?遠くから来たのね」などと言いながら、それぞれの気持ちを生き生きと語っていたのが印象的だ。ただ、記者と当時の菅直人首相夫妻との親密さが若干気になります。

 記者は、日本という国について「愛憎半ばしている」と話している。そんな思いも垣間見える力作です。「政府、東電の処理水海洋放出に反対するのは非国民だ」と言わんばかりの言説があふれる日本社会にとって、本当に必要なのはこうした作品ではないかという気がします。
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