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ウォーターメロンマンの一のレビュー・感想・評価

ウォーターメロンマン(1970年製作の映画)
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傑作!Melvin Van Peeblesまじリスペクト。差別と人種ステレオタイプを題材にしたこの大変際どい風刺コメディーを成立させる戦略と胆力に感激する。白人から黒人へとカフカ的変身を遂げる主人公を白人俳優(ジャック・レモンが候補だったという)にブラックフェイスで演じさせ、夢オチのエンディングを用意していたとされるコロンビア・ピクチャーの当初のプラン通りに完成した本作を想像してみよう。「みなさん、この映画を観て考えていただけましたか。白人の特権性について。そしてレストランへの入店を拒否され、何もしていないのに窃盗やレイプの容疑をかけられる、黒人男性の“いつも通り”の暮らしについて。でも安心してください、これはただの悪夢で現実ではないのだから。」どう考えてもおぞましいだろう(ジジェク風に言えば「無意識においては、つまり欲望の〈現実界〉においては、われわれはみんな“黒人”なのだ。」ということになるのかもしれないが)。ピーブルズは確かな意図を持って、これを完全にひっくり返してみせるのだ。黒人コメディアンのゴッドフリー・ケンブリッジにホワイトフェイスのメイクを施して、典型的な中流階級の白人を演じさせる。初めから現在のエンディングだけ撮影しておいて、「2タイプのエンディングを撮っておくからそっちで好きな方を選んでくれ」と会社をだまくらかす。その結果…シットコム風のセット撮影も相まって、理想化された50年代的アメリカン・ホワイト・ドリームの虚飾は際立ち、そして主人公が黒人として生きていくことを受け入れていくストーリーは、むしろ解放のプロセスに変容する。夜の街を闊歩し、黒人街のバーに入り浸り、ブラシを武器に見立てて黒人たちと戦闘訓練に励む彼を捉えるエンディングが本当にかっこよく撮られてて感動する。最高だなー。60年代後半のフランスで長編デビューを飾ったピーブルズのヌーヴェルヴァーグ的感覚も随所に観られて楽しい。監督自身が手掛けたオリジナル音楽はもちろん◎。本作のサントラも素晴らしいし、ピーブルズの音楽アルバムはどれも良いのでオススメです。
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