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サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)のxoのレビュー・感想・評価

3.4
クエストラブの編集力がすごいと思う。
単なる「1969年のライヴ映像の蔵出し」になっていない。社会背景の解説が入ることでライヴパフォーマンスに重みが生まれているし、BLMを持ち出さずとも、観た人誰もが現代社会に通ずるメッセージを受け取ることができる。

冒頭では、このフェスに至るまでの当時の黒人社会に何があったのかが示される。
公民権運動を経てのマルコムXやキング牧師の殺害、それに反応した暴動の数々、ベトナム戦争。
印象的だったのは、アポロ11号が月面着陸するニュースの中、ハーレムの黒人たちが向き合っていた現実。「西洋中心史観」という言葉があるけど、同様に、「白人中心史観」だってあるわけで、一般に「歴史」とされているものからこぼれ落ちてきた歴史はたくさんあるんだろうな、と思わされる。

現代のフェスのように、タイムテーブルを見ては移動して文脈関係なしにいろんなアーティストを楽しむ、っていうのではなく、お客さんもアーティストもある種の危機意識を共有している。
だから、アーティストのパフォーマンスも密度がすごく高い。

いろんな音楽が出てくるけど、特に印象に残るのがマヘリア・ジャクソンとメイヴィス・ステイプルズのデュエット。
ゴスペル(あるいはブルース)という音楽がなぜ産まれ、歌われ続けているのかを実感できる。あまりにも不条理なことが多いから「祈る」ことなくしては生きていけないんだっていう。。

スライは音楽的な観点で別な次元にある。歌のメッセージはおろか、メンバー編成からして当時の先を行っていたことがよくわかる。

そういえば、「団結しよう。ひとつになろう」のようなメッセージって、白人からは聞かないよなぁ。。

俺はこれは学校の教材にでもしていいと思う。それくらい、人を選ばない間口の広さと、射程の広さがある。説教臭さや「優等生の主張」感がないのが素晴らしい。

エンドロール後のスティービーの謎な振る舞いには笑った。
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