しん

サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)のしんのレビュー・感想・評価

4.2
1969年。ハーレムは悲しみに暮れていた。怒りにうち震えていた。そして革命を求めていた。そこに突如として現れた文化の波。その歴史は、つい最近まで消し去られていた。

本作はそんな「忘れ去られた」歴史(そもそも覚えておく気などなかったのだろう)を救い出す試みである。しかし単に「あんなことがあった」と振り返るだけの「記録」ではない。そこに確かに存在した革命の足音に耳をそばだて、「ニグロ」が「黒人」に変わる瞬間を捉えようという「映画」である。

その熱狂の渦に観客は巻き込まれていく。いや巻き込まれていけ。文化は権力であるというカルチュラル・スタディーズのテーゼは、本作に結実する。なぜブルース(悲しみ)を歌うのか、なぜそこに立つのか、なぜ怒るのか。今の時代に失われているかもしれない熱狂は、圧倒的な理不尽の結果であり、怒りの到達点である。

1185年(鎌倉幕府の成立)でも1492年(コロンブスのアメリカ大陸「発見」)でも、1600年(関ヶ原の戦い)でもない。私たちが覚えるべき最重要年号は1969年である。
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