たくみ

かそけきサンカヨウのたくみのレビュー・感想・評価

かそけきサンカヨウ(2021年製作の映画)
4.2
少し地味目な映画かなと思い鑑賞しましたがとても良かったです。

人と人との距離感の縮まり方がすごく丁寧に描かれている作品だと感じました。
家族が増える事、友達との関係性、そして友達から恋人になりたいと思う気持ちが群像劇の中で描かれていく。

この映画で特徴的だなと感じたのが食事のシーン。
記憶の限りでは同じ人物構成での食事シーンは無かったと思うし、すごく食事のシーンが多い。
それがどんどん人とのつながりが増えていっているように感じた。
陸くんも家族の様に絆が深いし、友達も同じくらい大事な存在となっていっている気がしました。

この映画は陽を中心に物語が紡がれていきます。
4人で家族として暮らしていくことが決まってから明らかに不安そうな陽。
家の扉を開く前に少しためらったり、ひなたちゃんがおにぎりを欲しがってきたときに表情が曇る。
家族の前では気丈にふるまっているが、あることで感情が爆発する。
これは肉親であるお母さんとの繋がりを感じられた唯一のものが破壊されてしまった事に対する怒りだと感じました。
このシーンでは感情的になってしまう陽が、大人っぽく見えるけどまだ子供で未完成である事が強調されているような気がしました。

この後父親と話し合うシーンで繋がりが切れていないことを知ることになる。
このシーンがすごい。体感時間では10分以上はあったと思う。
けど父親と子がお互いの気持ちを理解する大事なシーンなのでこんだけ時間をかけたのかなと思ってます。
足触りながらお父さんの話聞いてる陽の感じがリアルで何か好きでした。
この後母親と再会するのだが、敢えてこのシーンは描いてないのかなと感じた。
描く必要もないし、描かずとも陽の気持ちはばっちり観てる人に伝わっていたと思う。
その後美子と陽が親子になるシーンも素晴らしい。
呼び名が変わる(陽さんから陽、美子さんからお母さん)だけでも距離感が縮まってるのわかるし、2人ともより優しくなっていた。

もう一つの視点で人と人との繋がりが描かれているのが陽と陸パート。
陸がデートに誘うシーンは高校生など遠い過去の自分でも淡すぎてキュンキュンしました。

陸も陽も片親と暮らしているけど並々ならぬ愛情を注がれている事で真っ直ぐな子に育っている。
選んだデート先が、
陽:ギャラリー(母親に思いを馳せてる)
陸:飛行機の見える場所(海外にいる父親に思いを馳せてる)
となっており、しっかり真っ直ぐな子に育ってるからこそ、そばにいないもう一人の親を思う事が出来ているんだろなと感じました。

陸は真っ直ぐすぎるが故に陽を好きでいいのか悩む。
観てるこっちからするとお前以外にお似合いなやつおらんぞ!?ってくらいお似合いなので応援したくなりました。
こんな真っ直ぐな子に自分も育ちたかったものです。

陸は持病のせいでバスケ部から美術部へ。
やりたい事も出来なくなり、新たに始めた絵は才能が無いのではないかと不安になる。
しかし、その絵で陽を喜ばせる事が出来た。
終わり方が憎い。良すぎる。
しかも陽も絵をプレゼントする事でお母さんを喜ばせているので、大事な人には似顔絵をプレゼントするという共通点がある。
この点でもお似合いなのでは?と思いました。

久々にハートフルな作品を観ることが出来ました。(この後「空白」を観たのでその日は心情ぐっちゃぐちゃでしたが)
個人的には“しょっぱい”を指摘する事があそこまで愛に溢れたものになるのかと感じました。
“しょっぱい”と教えることが出来る人と出会いたいものです。

親愛の情が深まっていく過程が丁寧に描かれた素敵な映画でした。

【その他メモ・独り言】
・遠藤くん演技バチクソ上手い。少ない登場シーンで印象にのこった。
・おにぎり三個食べちゃうひなたちゃん。
・サンカヨウの花言葉:親愛の情、幸せ。
・幽けき:今にも消えてしまいそうなほど薄い、淡い様子。
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