てるる

ベネデッタのてるるのレビュー・感想・評価

ベネデッタ(2021年製作の映画)
4.0
やっぱヴァーホーヴェン爺は相変わらず変態で笑っちゃった。
もう1ヶ月以上前に観たのに、未だ記憶に残る鮮烈な作品だった。

いつものエロス&バイオレンスはもちろんのこと、監督の反キリストな要素がそこかしこに垣間見える。

ヴァーホーヴェン自身は反キリストなわけではなく、若い頃に恋人を妊娠させてしまった時に教会に誘われて通ったそうな。
でも2週間くらいでキリストの存在に疑問を感じて信仰を止め、その代わりにキリスト自体に興味を持ち、もう何十年もキリストについて研究している人。

それなのにキリスト教(おそらく他の宗教含め)を皮肉ったような、バカにしたような描写に見えてしまうのが笑ってしまう。

ある意味で信仰という名のもとに権力争いや欲望渦巻く世界を現実的に描いてるとも言えるのでは。

主人公のベネデッタは幼い頃からキリストのヴィジョンが見え、スティグマータ(聖痕)を授かり、若くして修道院長に登りつめた実在の人物。

しかしバルトロメアとの同性愛に目覚め、性に奔放になり、なおかつキリストのため、そして権力を守るためなら非人道的なことも厭わない強かな女性。

でも確かに聖書に出てくる神様って、結構酷いことしてるんですよね。
夢の中でキリストが兵士達を斬殺するシーンは監督の趣味とキリストへの皮肉が融合しててお見事。

この映画でもキリスト教の偉い人が拷問したり、肉欲に塗れた生活しておきながらめちゃくちゃ権力欲に塗れた俗世人。

現実世界ではカトリック教の聖職者による性的虐待事件が世界で何万件、何十万件とあり、しかもそれを上層部が隠蔽していた事も発覚。
それが発覚するきっかけとなったのは映画「スポットライト」に詳しい。

そういうことを踏まえるとベネデッタは決して聖人君子とは言えないのに、見ていて痛快でさえある。
いけ!もっとやれ!と心の中で応援してしまう自分がいた。

監督はインタビューでも、あの男性中心の時代で、なおかつ男性中心の宗教界において権力を手にし、同性愛で裁判を受けたベネデッタに非常に興味が湧いたという。

キリスト史の研究者でもあるので、ベネデッタの裁判記録もとても貴重な資料と思った様子。

それをヴァーホーヴェン節をガッツリ効かせた映画に仕上げるのが凄い。
特に終盤の展開はフィクションである部分も多いらしいけど、最高にスッキリ。

「ショーガール」が酷評され、続けて「スターシップ・トゥルーパーズ(個人的には大好きなのに…)」「インビジブル」が興行的に失敗して大きな仕事が貰えなくなったヴァーホーヴェン爺。

御歳80を超えてこれだけ物議を醸す作品を撮りあげ、第一線に返り咲くなんて誰が想像しただろうか。

いや、「ショーガール」でラジー賞を受賞した時に史上初めてトロフィーを受け取り、最高のスピーチをかました豪快すぎる人なのでさもありなん。

以下、ネタバレあり












ベネデッタとバルトロメアがレズビアンとして告発されたのは史実だけど、マリア像からディルドを作って行為に及んだのはフィクションとのこと。

実は当時は男性社会であるがゆえに、女性同士の行為はそこまで重い罪では無かったそう。

だけどディルドなどを作って行為に及んだ場合は別で、それこそ火あぶりくらいの重い罪に問われたんだとか。

ヴァーホーヴェンは映画として終盤を盛り上げるため、かのジャンヌ・ダルクのように火あぶりの刑にすることを考え、その刑に処される為にディルドを使うということを考えたとのこと。

確かにあの火あぶりになるのかならんのかのシーンはめちゃくちゃハラハラしたし、あのいけ好かないお偉いさんが逆に民衆に反撃されるシーンはスッキリした!

そして火あぶりのシーンで聖痕から血を流すシーンを加えたからこそ、ベネデッタが本当に聖痕を得た人なのかが曖昧になり、観る人に判断を委ねるような作品に。

要するに、自分はキリスト教を信仰してないけど、世界中には多くの信者がいる。
信じるか信じないかはあなた次第です!
ということなのだろう。

いやもうさすがヴァーホーヴェンとしか。
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