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ベネデッタのあんずのレビュー・感想・評価

ベネデッタ(2021年製作の映画)
4.1
本人の強い信念により事実が何か分からなくなり(本人は分かっていたんだろうか)、周囲の人を巻き込み混乱させて行く様は、観たばかりの『エスター』と重なり怖かった。

怖さやグロさは一旦置いておいて、中世の雰囲気は好きだし、修道女の暮らしをこんなに詳しく観たことがなかったので、興味津々で観ることが出来た。衣服やトイレ、オルガンやギターみたいな楽器が現在に近い形でもうあって、あんなに手の込んだ劇をやるのもすごいなと文化レベルの高さに感心した。

元修道院長とその娘が哀れだったなと思うし、他のシスターたちは本当のところどう思っていたのかが気になるところ。『最後の決闘裁判』のように視点を変えて物語を観てみたい気がする。それと同時にベネデッタの本音を語る独白も。けれど、それがないから、ますます私たちの妄想は掻き立てられる。

17世紀から21世紀になり同性愛は認められつつあるけれど、相変わらず宗教で争うし、宗教を政治の道具や商売にするし、やっぱり男社会だし、一部の権力者が富を享受するし、疫病には悩まされるし、結局、浮世とは辛いものか。

個人的に現代が17世紀の人に胸を張って誇れるものがあるとしたら、それは水洗トイレだ(そんなことを劇中考えていた)。帰りに寄ったイタリアン(今気付いた。ベネデッタの舞台だ!)のお手洗いにあった箱の上に赤い十字架が付いていて、「ベネデッタの啓示だ!」と一瞬ドキリとした自分がいる。しばらく、エスターとベネデッタが頭を離れそうにない。
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