金魚鉢

こちらあみ子の金魚鉢のレビュー・感想・評価

こちらあみ子(2022年製作の映画)
4.4
『周囲から浮いている少女あみ子に起こる出来事を一定の距離から見つめる』

味わったことのない鑑賞後感。成長するに連れて"こちらあみ子"という呼びかけに誰も耳を傾けず、応答しなくなっていくという形で、教育のレールを外れ社会から乖離していくあみ子が描かれていく。あみ子のありあまるエネルギーからくる衝動的な性格や制御が効かない言動をオーディションで選ばれた大沢一菜が圧倒的な存在感で好演。とても手に負えない自由奔放ぶりな彼女が、この映画上では決して可哀想な人物としては扱われていないものの、次第に社会とのズレが大きくなっていく様を痛感させられる。田舎町のほんわかした幼少期の家族ものから徐々に軋みが生じいく中で、ただ一人変わることのないあみ子が見る世界を映し出すという点でかなりの残酷さがある。坊主君が言っていた、「自由の象徴でもあって、いじめの象徴でもある」という台詞とあみ子自身はその少年の存在すら知らなかったということが何だか凄く響いた。

また、演出から監督の強いこだわりを感じる作品でもあった。フレーム内に映すものと外から聴こえる音によっていま何を見つめていて誰の意識がどこにあるのかというのがはっきりと分かるリアルで研ぎ澄まされた映像が続いたかと思えば、あみ子の空想大行進といったようなファンタジーであったり、疲弊しきった母親のホラーな姿が唐突に登場したりと監督デビュー作とは思えないほど趣向が沢山詰まっていた。最後の画面外からの呼びかけに対してあみ子が「大丈夫!」と答えるシーンも、純粋無垢で前しか見ていない彼女の性格を物語っていると同時に、これから待っているであろう世界を浮かべてこちらは少し不安を感じてしまうような印象的なラストだった。
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