netfilms

フィオーリ、フィオーリ、フィオーリ!のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.9
 サルヴァトーレフェラガモを身に纏ったモデルたちの競演。マリアカルラ・ボスコーノやヨナス・グロールらのモデル歩きと美しいポージング。ルカ・グァダニーノの矢継ぎ早なカッティングは真に斬新で、伝統と革新の間をせめぎ合う。テクニカラーのイエローのフレームバッグはどっしりとした気品を漂わせ、フレームの奥で輝く。およそ1分30秒のフェラガモのヴィヴィッドなCMの後、ルカの12分間の短編が始まる。

 今、最も新作長編が待たれる『君の名前で僕を呼んで』のルカ・グァダニーノ監督は新型コロナ・ウィルスによるイタリア政府の2か月間のロックダウンの後、突然生まれ故郷のイタリア・シチリア島を訪れる。物語は港から始まり、車で様々な村々を転々と渡り歩く。スマートフォンやタブレットで撮影されたあまりにも美しい映像の数々、カラフルに生い茂る花々やピンク色に染められた対岸の空、そしてゴツゴツとしたテクスチャーは、コロナ前と後とではまったく変わらない美しい風景を讃える。ルカは子供時代の友人たちを訪ね歩き、こんな状況下でも元気か尋ねて回るのだが、彼らは皆ルカの訪問を喜びながらも、この状況がいつまで続くのかと悲嘆に暮れる。その複雑な表情が興味深い。

 思春期まで暮らした父の生家の窓から漏れる匂いを嗅いだルカ・グァダニーノ監督は、幼少期の原体験に触れ、思わずはにかむ。夢にまで見た原風景はあの頃と同じ匂いを漂わせるが、世界の在り様や監督自身を取り巻く環境は随分と様変わりしてしまった。農業を営む人々は「カオスに慣れろ」という。何が美しいものかどうか少し視点を変えてみようと。映画は最後に『サスペリア』や『胸騒ぎのシチリア』でタッグを組んだ脚本家のデヴィッド・カイガニックとオンラインでつながる。森が穏やかでいるためには一定の周期で焼き払う必要があると彼は言う。世界の閉塞感の中で、我々はルカと共に新しい日常へといま力強く足を踏み入れるのだ。
netfilms

netfilms