グラビティボルト

スティルウォーターのグラビティボルトのレビュー・感想・評価

スティルウォーター(2021年製作の映画)
3.9
思わぬ拾い物のような見応えがある。
半壊している住宅のドア枠から、
マット・デイモン演じる肉体労働者の背中が映る冒頭からして武骨な印象。
硬質なサスペンスかと思いきや、
逮捕されている娘との面会シーンに宿る温度感、サスペンスとドラマを行き来する構成に驚く。

娘が拘束されたフランスの言葉を一切覚えようとしないままデイモンがひたすら希薄な手掛かりを追っていく。
街を散策するシーンはまず
頼り無げに立つ彼を引きで捉えたショットから導入する古典的な見せ方が好印象。
若干粗暴な主人公を血肉化したデイモンの仕草が映える。

マット・デイモンが独りで街をさ迷い歩く様を捉えたショットは勿論だけど、複数人が絡む会話のシークエンスもまず役者の佇まいを映えさせること優先でそれ以外の技巧が排されたような画の連なりが気持ち良い。
カミーユ・コッタン演じるフランスの舞台女優との会話なんか特に。
舞台女優とその娘とのシーンが面白いのは、
「知的で反差別的な二人にデイモンが癒されていく」方向に会話が向かわず、あくまでも主人公の人間的な欠陥が維持されたまま会話が進行するから。
どんなに温かく擬似家族的な細部が映ろうと、他人と同じ屋根の下に住む緊張感がある。

いくらでもドキュメンタリックに、
扇情的にラフな撮影、過剰な演技で覆っても面白く出来そうな題材を、
どっしりとした撮影、役者がキャラクターを血肉化したような演技、
サスペンスのような広告からは想像出来ない蛇行をする野心的な構成。
ラストショットで、故郷たるオハイオをロクに撮らず、「世界が変わって見える」と呆然とするデイモンの顔アップで
終わらせることで真に「役者の映画」として着地した感がある。
あと、冒頭の半壊したドア枠から一歩進んだテラスの揺り椅子という位置関係も注目。
強かで堅実な演出。大いに楽しんだ。