netfilms

シークレット・ディフェンスのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.0
 「ジャック・リヴェットの知られざる傑作サスペンス、遂に公開」という非常に興味をそそられる謳い文句ながら、傑作と言うにはいささか憚れる大変珍妙な作品である。てっきり私はヌーヴェルヴァーグ勢きってのサンスペンスの巨匠たる盟友クロード・シャブロルのような単純明快なサスペンスとして成立しているのかと予想していたのだが、よくよく考えればこの手のありふれたサスペンス映画で173分はないよねと。冒頭の『科捜研の女』っぷりにこれはウェルメイドな火曜サスペンス劇場が来るかと思ったのだが、途中まで観て行けばいつものジャック・リヴェットの世界そのもの。まず弟が幽霊のような死に体で研究所に現れるところが最初から暗示しているように、今作に登場する男性たちは最初っから現実の世界に生きていない。弟が電話に出ないなどとシルヴィ(サンドリーヌ・ボネール)は言うが、彼女が弟に電話を掛ける場面を何度も何度も繰り返すジャック・リヴェットの判断が正気とは思えない。こんな場面を何度も繰り返さずに、一度で良いから頼むから切ってくれよと。だが当のジャック・リヴェット本人は嬉々としてこのような反復表現を好む。案の定、次の場面で弟は病院に収容されている。

 サスペンスの常道で言えば、彼が殺され姉が一念発起する道筋が案外楽だと思うが、そのような常道を絶対にジャック・リヴェットは用いようとしない。代わりに彼が繰り出すのは、亡き父の右腕だったヴァルサー(イエジー・ラジヴィオヴィッチ)との奇妙な愛憎である。アイツの首を刈ると断言して止まない血気盛んな弟の鼻っ柱を止めようとした姉貴の好判断と言いたいところだが、どうして昼間のパリで数分だったヴァルサーのオフィスではなく、例の郊外の豪邸に行くまでをあれだけ懇切に丁寧に、列車内のトイレでサングラスを二個試す辺りまでをあれだけ丁寧に描写したにもかかわらず、侵入は途中の茂みからこっそりだし、どう考えても前後関係考えれば丸々カットで良さそうだが、そこは曲者ジャック・リヴェットの認知機能の歪みと言うか、どうしても途中で珍妙な話を入れねばならないという作家的野心と言うか閃きがそうさせるのだ。今作の最初の仰天ポイントは、退場した人物の奇妙な再登場で、天国から不吉な予兆として現れた妹をヴァルサーは屋敷にのうのうと受け入れてしまうのだ。ここから先に屋敷で起こるのは痴態プレーの一種の亜流であり、それ以上でも以下でもない。まるで生気のないヴァルサーという口先男の口八丁にこの物語は完全に掌握されている。銃を向けられても何の狼狽もしない辺りが極めて生気がしない。だけど妙にクセになる大変珍妙な作品であることは間違いない。何度も言うが半分のサイズに収めれば傑作だった。
netfilms

netfilms