幽斎

ザ・ミスフィッツの幽斎のレビュー・感想・評価

ザ・ミスフィッツ(2021年製作の映画)
3.0
私はアラサーですが、子供の頃にはシネコンでは無く個人経営する映画館が京都にも沢山有った。同じ映画を朝から晩まで見ても料金は同じ。見逃しても2番館で2本立てで見れた、今は東映のTジョイ京都、松竹のMOVIX京都、東宝のTOHOシネマズ二条、そしてアップリンク京都。支援事業に参画するミニシアター、京都シネマ、京都みなみ館、出町座が洛内の映画館。おっと洛外ならイオンスタイル京都桂川も。「京都は日本のハリウッド」も、時代劇の衰退で有名無実に等しい。Tジョイ京都で鑑賞。

本作はそんな2番館で見るのがピッタリな案件。仕事終わりに餃子の王将で夕食を済ませ、レイトショーで観たが、スクリーンには私を入れても4人しか居ない。まぁ、天津飯を食べながらスマホで予約した時点で、がらんどうなのは知ってた。映画って色んな見方が有るけど、疲れた体を労わる様な中身の無さ(笑)。Tジョイはイオンに併設されるが、深夜でバイトさんも居ない無人の映画館と閉店してるイオンの中で、誰にも合わず車に乗り込む。凡作と判っても暇潰しに劇場に行くのも1つの文化かも。

原題「The Misfits」不適合者。監督Renny Harlin+脚本Kurt Wimmer+主演Pierce Brosnan。名前だけは凄いと言いたいが全員旬を過ぎた過去の人達。このメンバーで触手が伸びるのは50歳代ぐらいかと思うが、観客の残り3人も父親世代の人ばかり。Harlin監督がアメリカで活動した最後の作品「ザ・ヘラクレス」2014年だが「映画史に残る失敗作」ネットで酷評され、出身地フィンランドで隠居状態。中国資本の得体のしれない作品で小銭を稼ぐ寂しい晩年を送る。

Wimmerと言えば私の大好きな「リベリオン」監督兼脚本家でBrosnanとは「トーマス・クラウン・アフェアー」コンビを組む。彼は無理ゲーと呼ばれた「トータル・リコール」リメイクに成功した才人だが、1991年「ハートブルー」リメイクを中国資本で参加して大コケ、此方も開店休業状態。Brosnanは私の心の友「007」5代目ジェームズ・ボンドだが、もう69歳。これまでのキャリアは素晴らしい人達だが、才能の枯渇は拭い切れない。

表面上はアメリカ映画だが、気の抜けた作風には訳が有ると思って調べたら、製作国のロンダリングが判明。正しくはUAEアラブ首長国連邦がスポンサー、南朝鮮の制作会社が作る非ハリウッド映画。Wimmerの脚本もワイスピとオーシャンズを混ぜて、お酢を足す所を砂糖で割った様な、脇の甘さで肝心な部分が溶けて無く為る、致命的な中身の薄さ。いや、分って観に来てるのでクレームでは無い(笑)。

未見だが「ビヨンド・ワルキューレ カリーニングラードの戦い」Robert Hennyの書いたボツネタが原案らしいが、それにしてもHarlin監督の腕の落ち具合も別な意味で凄い。時代遅れの脚本でも、このメンツで見せ場の1つも作れないのは演出家として致命的。子供の頃に見た「ダイ・ハード2」傑作だと思うが、もう晩節を汚すのは・・・。

鑑賞後に調べて納得したが、本作の鍵を握るのは別な意味でプリンス役のRami Jaber。始めて見る俳優だが、ラリーのプロドライバーから映画界に転身した変わり種。ポイントは彼がパレスチナ出身で有る事。世界情勢に詳しい方なら、此処でピン!と来る筈だが、本作のスポンサー、アラブ首長国連邦と敵対してるのがカタール国。Jaberもアラブの王子と自称してる山師(笑)。作品の中身同様に胡散臭い匂いしかない。本作はカタール政府から正式な抗議を受け、一部の国では非公開扱い。

Brosnan繋がりで劇場で観てる時、物凄い既視感に襲われたが帰りの車の中で思い出した。コレって「ダイヤモンド・イン・パラダイス」焼き直しジャン(笑)。Salma HayekとWoody Harrelsonが良かった南国系バカンス映画。才人Brett Ratner監督の演出が光る正統派B級エンタメだが、唯一Wimmerらしさを感じたのはTim Rothの設定。ハリウッドでは本作の様なプロットをケイパー映画と言うが、Rothのキャラを活かしたサディスティックは唯一の見せ場。

描かれた砂漠のシーンは、本物のサンドストームで撮影。オフロード車が何台も登場する砂漠のカーチェイスは、流石アラブ首長国連邦だが、アクションの見せ場も緊張感ゼロで、ケイパー映画の要であるサプライズも無し。俳優全員が拘束時間が少ない事を良い事に金が貰えるバカンスと割り切って演じてる。ラストのプールは完全に打ち上げだろ(笑)。

観て無いので全くの想像で書くので違ったら指摘して欲しいが、多分だけど同じケイパーでも「コンフィデンスマンJP」の方が遥かに面白いんじゃ無かろうか?。ケイパーの傑作「ルパン三世」が本作よりも面白いのは疑う余地も無いが、長澤まさみに負けるHarlin監督(笑)。トロピカルなBGMとアラブ首長国連邦が提供した観光映像に、時々爆破シーンが有るだけ。「ぬるい」を極めた本作だが、こんな作品も有って良い。

ラジー賞(ゴールデン・ラズベリー賞)ワースト監督賞、ワースト助演男優賞、ワースト脚本賞。何れも未遂だが、おめでとうございます!。
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