ヴぇる

ディア・エヴァン・ハンセンのヴぇるのレビュー・感想・評価

3.2
優しさはあるが余りにも大き過ぎる嘘は扱い方を誤れば最悪の悲劇になりうる。今作はその扱いが少し難しすぎたために受け手によって評価が別れる作品になってしまったように思う。

まずはミュージカル部分の曲調は素晴らしく近年の流れをキッチリ取り込みいい所を抽出したような歌の数々であった。加えて、ほとんどの役者の歌声は素晴らしく、気持ちよく聞き惚れることが出来た。特筆すべきは主人公で高音や声量はピカイチであり開幕からミュージカル映画特有のワクワクウキウキさせてくれるそんな気分に酔いしれた。

そして脚本だが、予告であった様な涙無しでは語れない感動作という観点ではないように見える。どちらかというと現代日本の青春映画に近いものを感じたので若干チープに感じた。起承転結はハッキリしているし飽きさせない話の作り方はしているが、いかんせん、演出と映像編集が中弛みを強調してしまったのも事実であり、映像を重ねていくクラグラフィはイマイチだし、YouTuberやネットの声を拾い集めるのもいい加減見飽きている技術の総集編の様な形だったので非常に退屈に思う。

また細かい話ではあるが、嘘というレールの上でいくら泣ける展開をしても泣けるかかどうかは難しい。ミュージカルという特性上全ての問題を放り投げて音と声に魅了させてしまうというのも長所の1つだが余りにも問題が大き過ぎたために泣ける展開の時も私はそこまで入り込むことが出来なかった。
ただ、劇場ですすり泣く声がまずまず聞こえていたのでヒットする人にはしているのだろうとも思うが…。

終盤で非常に考えさせられたのが、真実を打ち明けたあとの母親が隠し通すと決めたのには驚きのため息が出てしまった。二人の息子を失うという素晴らしい言葉であり、名言の1つだろう。

総評として簡単に言えば、アメリカのティーン向けの映画だったのではないか?と思う。嘘という物語は若干教育的要素と取れなくはないし、取っ付きやすいミュージカルで学園モノだ。従って、全体的に重厚感はなくテーマの割に少しチープな出来になってしまったのではないかと思われる。
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