Toshiko

ディア・エヴァン・ハンセンのToshikoのレビュー・感想・評価

3.5
エヴァン役のベン・プラットの歌声がとても良い。全編通して使われている曲も良い曲ばかりで、調べると「ラ・ラ・ランド」や「グレイテスト・ショーマン」を手がけたスタッフ陣が関わっていると知っておおいに納得した。踊りはないけれどミュージカルの秀逸さは十分に感じられる作品。
しかしストーリーにそれほど共感ができなかったのが残念なところ。
(以下ネタバレあります)









エヴァンは真面目に一生懸命毎日を生きている高校生で、友達(だと思うけど、本人は否定している)もひとりしかおらず、憧れている女の子にもなかなか話しかけることなどできない。こういう人が、この話のように意図せず注目される機会を得て、周囲の人たちが望む(そうあって欲しかった)事実を事実に近いものにするために頑張ってしまった。いい嘘をついたともいえる。
しかし彼はその嘘を背負いきれずに、最後には告白し、すべて清算する。物語として清算せずにいい思いをし続ける結論はほぼあり得ないので、こうなると分かっていながら観ていなければならないのは辛かった。

世の中にはこういう嘘をさらりとつきながら、上手に生きている人だっているはずなのに。なぜこのように真面目で孤独で不器用な青年が巻き込まれてしまうのかな。
と、物語の構成としてそういう人物をターゲットにしたこと自体に共感できなかったりした。
なので、わたしはたぶんこの作品が嫌いではない。すごく没頭して観てしまったから、良作だと思う。ただ共感できないだけで。

しかし、エヴァンが誠実で、そして思ったよりずっと逞しかったのが救いだった。エヴァンの母親役にジュリアン・ムーア、亡くなったコナーの母親にエイミー・アダムスと、母親ポジションに演技派が配してあって、エヴァンの脆弱さを気遣いつつ、シングルマザーとして家計を支え、コナーが亡くなってからどんどん様子が変わっていく様をじっと見守る母親、亡くなった息子にも友人がいて、決して孤独ではなかったと信じたい母親がきちんと説得力ある人に仕上がっていて、作品の出来に大きな影響を与えていると思う。
一点だけ、コナーの情報がもう少し欲しかったかな。

褒めているのか貶しているのかわからないレビューになってしまったが、決して嫌いな作品ではないということは繰り返しておきたい。こういう不器用なほど誠実な人が、きちんと認められて、生きやすい世の中だといいな、などと思うわけです。
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