Rockch

場所はいつも旅先だったのRockchのネタバレレビュー・内容・結末

場所はいつも旅先だった(2021年製作の映画)
2.5

このレビューはネタバレを含みます

「世界ふれあい街歩き」NHK BPSは客が現地人と会話できるが、本作はひたすら自身の内面と喋り続けるのを客が傍観する。
労働者のおじさんの食べ姿が汚く見えない編集は素晴らしい。
若い頃に撮った写真が上手い。
絵の見せ方にセンスがあるのだろう。
ただ、いかんせん、間がない。
見に来た人が自分自身の感想を挟み込む隙が全く無い。
一瞬でいい。場面が変わったらナレーションを流し始める前に空白のだんまりタイムを作って欲しかった。
せっかくいい絵を見せてくれるのに、見ようとすれば弾丸独白が聴かせられ、聴けば目で動く心は遮られ、どっちつかずだ。
だから「美味しそうだった」「旅っていいな」「オシャレだ」「いい声だった」という感想で終わってしまう。
大学時代、眠たくなる教授の講義ってこうだった。

本当はこの映画でなければ伝えられないことがあったはずだ。
というのもまず冒頭で若い頃の旅の回顧が流れる。そこにストーリーがあるのだろうと期待する。が、その繋がりが絶たれている。
若い頃そうだったら今はどうだったのだろう。それが伝わってこない。
延々と草むらを歩きながら人間の弱さを語っているシーンがそれなのだとしたらあまりにも若い頃と何も変わっていない。
普段と対極の場所へ旅する意味も、それで何を掴んだのか分からなかった。
現地人との交流はほぼおじさんで、尺が長く取られた女性はかろうじて美人のウェイトレスの後ろ姿というのもなんだか「ただの老けた少年」を感じる。
人を、人格を持った1人の人物としてではなく自分の理解の範疇を超えた文化、或いは撮影すべき対象物として撮ってはいまいか。
だとしたら突然旅人を船に乗せてくれた親切なマルセイユの漁師に同じ日本人として手を煩わせはしなかったか恐縮してしまう。本作の中で何の理由があってあの漁船に乗り込む必要があったのか。
それに、情景を映し出し目で見て分かるのに同じ情景を同じタイミングで言葉でも語るのは冗長である。
余計なものがあると伝わるものも伝わらない。
この映画で伝えたいことが伝わればこの映画と客との間で美味しいカクテルが作られたはずだ。
伝えたいことがないなら若い頃の写真はただの自慢話で、繋がりの無いものはドキュメンタリーに不要だ。
ドキュメンタリー映画ではなくイメージ映像と言うのなら分かる。
それなら病院の待合室で流すと良い。
これなら文章は本だけで良く、ナレーションは音声データだけで良く、映像は現地の音と映像だけで良かったと感じる。
むしろそのような売り方をしたかったのかなと勘繰る。

細かいことだが二つ。
ナレーションの音の聴こえ方から、2種類の録音がミックスされていると分かる。
初めはややマイクと声優の距離が近い。そのあと切り替えてよりクッキリ聴こえる場面となる。
そのタイミングが少なくとももう一度ある。これを2セット繰り返している。
2種類のスタジオで録音したのだろうか。
また、カメラの揺れは次回があるならジンバルで抑えていただきたい。画面酔いするので。
こうした瑣末なことに気を取られたくなかった。もっと没入したかった。
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