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ダルバール 復讐人のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ダルバール 復讐人(2020年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

泣く子も黙る恐怖の警察署長アディティヤ・アルナーチャラムは、ムンバイ中のマフィアを殺しまくっていた。それは政府の人権擁護委員会にも伝わっており、アディティヤは免職の危機にあった。しかし誰もアディティヤを止めることができない。なぜならある悲劇が原因だったからだ…。

「ムトゥ踊るマハラジャ」「ロボット」シリーズなどで知られるインド映画界の大スター、ラジニカーント主演のアクション超大作。
さすがは世界最多の映画製作国のインド。
人口が間も無く世界一になるらしいが、万人にウケるために、歌にダンスにアクションにラブコメと娯楽要素のてんこ盛り。

アクション映画としては物足りないところはあるが、スーパースター・ラジニカーントをカッコ良く輝かせる「工夫」が随所に見られる痛快作だ。

ラジニカーントは、犯罪撲滅のためなら手段を選ばず、しかも大勢の悪人相手にたった1人で乗り込んでやっつけてしまうような、いわゆる「はみ出し刑事」を演じるのだが、なんとその役職が「警察署長」というのが意外と斬新。

個人的には前半がお気に入り。
地元大臣の娘が行方不明になった事件の捜査の過程で、ムンバイに蔓延る麻薬組織の影を感じたアディティヤは、娘が見つかってからも間髪入れずに一掃作戦を始める。
そのおかげで数多くの少女や女性たちが解放される。

スマホ1つで情報収集、アッサリと麻薬の元締めを逮捕する驚異的な捜査能力を見せ、署員の尊敬を得るアディティヤが痛快だ。
しかし、麻薬の元締めマルホトラは役人にも顔の効く実業家の御曹司。
役人や刑務所を買収した実業家は、息子マルホトラの身代わりを牢に入れ、国外逃亡させていたことが判明。
麻薬供給が止まらないことに怒ったアディティヤは何と身代わりの男(もちろん犯罪者だが)を正当防衛を偽り、殺してしまう。
しかし、それはアディティヤが仕掛けた罠だった。
このまま司法解剖で偽物だとバレれば、実業家に協力してマルホトラを逃していた協力者たちの地位は失墜。
協力者たちは本物のマルホトラを殺し、司法解剖に差し出す。
かくしてムンバイの麻薬ルートは根絶される。
手段を選ばぬ「はみ出し刑事」の映画は幾つもあるが、それは末端の刑事だから「バレなければ良いだろう」とこっそりと影で悪事を行うか、または「理解のある上司が庇ってくれる」から出来ること。
それを「犯罪憎し」と組織のトップが堂々と行うのだから痛快である。
しかも、その強引な手法が成果を上げているのだから恐れ入る。

法で裁けぬような悪を法の執行者が、組織と権力を使ってトコトンやっつける。
コンプライアンスと忖度に縛られた日本の社会から見ると「いいぞ、もっとやれ!」と拍手喝采したくなる。

しかし、映画はまだ前半で「インターミッション」が表示される。
後半は一体どんな展開になるのか?と期待は高まる。

事件は解決したかのように見えたが、実はマルホトラは実業家の実の息子ではなく、かつて20人以上の警官を殺し、今ではアジアを股に掛ける麻薬組織のトップとなった凶悪犯ハリ・チョプラの息子だった。
そのためアディティヤはハリの恨みを買い、娘と共に麻薬組織に襲われてしまう。
アディティヤは一命を取り留めたが、溺愛する一人娘は死亡する。

大切な娘を奪われ、犯人が特定できない状況に、怒りを爆発させたアディティヤは、警察官としての正義を捨て、ヤケ糞に片っ端から悪党を殺す復讐人と化していった。

きっと、マルホトラ殺害を怨んだ実業家の仕業だと考えたアディティヤだが、実業家も既にハリに殺されていた。
同一犯と睨んだアディティヤはマルホトラの出世の秘密を追求。
実の息子を殺されたハリの仕業だと確信したアディティヤは警察署長に復帰。
他国警察の協力も得て、ハリを追い詰めていく。
カーチェイスに銃撃戦、ラストはかつてハリが警官を殺した廃屋で、ターミネーターばりの肉弾戦だ。
もちろん、アディティヤが勝利する結末なのだが、前半と打って変わって後半の結末には苦さが残る。
一本で2度美味しい作品である。

後半は娘を守れなかった父親がタイトル通りに「復讐人」と化す。
「強い父親」の映画も数多くあるが、大抵は家族を守り切る。
しかし、家族の復讐に燃える父親という図式はチャールズ・ブロンソンがかつて演じた「デス・ウィッシュ」シリーズに似て、挫折と傷心という辛酸を舐めるだけに、その悲壮な戦いぶりには共感せずにはいられない。

さて、褒めるだけ褒めたが、アクション映画として物足りないのは、やはり生身の迫力である。
あまりに流麗なアクションが不自然に思っていたが、ラジニカーントはこの時なんと70歳。
その年齢を感じさせないための演出の努力と工夫が実に涙ぐましい。
悠然と歩く姿はほぼスローモーション。
前方からは爽やかな風が吹き、髪(カツラ)や服の裾が揺れるジョン・ウー作品のような演出が施される。
肝心のアクションではラジニカーント自ら悪党に突っ込んでは行かない。
悪党の方から飛びかかり、ほんの僅かの動作でその勢いを利用したカウンターをお見舞いする姿はまるで合気道かカンフーの達人のようだ。
悪党はワイヤーアクションで宙を舞い、勝手に吹っ飛んでいく。
立場上のピンチはあるが、肉体的なピンチはほとんどない都合の良さが難点だろう。
しかし、これだけ主人公をカッコ良く描くとは、ラジニカーントがインドでいかに愛されているスターか分かろうというもの。
暖かい目で見るべきだろう。

とはいえ、ラジニカーントの年齢を知らない者でも充分楽しめる。
題名の「ダルバール」は「裁判」という意味。
時々放たれるブラック・ジョークと怒れる父の復讐の裁きに、アウトローな刑事ものとして楽しめる痛快作である。
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