真一

ノイズの真一のレビュー・感想・評価

ノイズ(2022年製作の映画)
3.2
荒唐無稽なお気軽サスペンスものという印象を受けるが、都市と地方の間に横たわる差別問題を描いた社会派作品としても観れる異色の映画だ。

 舞台は過疎に悩む愛知県の離島・猪狩(ししかり)島。島民の唯一の希望は、イチジクを栽培し特産品として全国販売している園芸農家の泉圭太(藤原竜也)だ。テレビでも取り上げられるほど人気が高まる中、国が地元の猪狩町に対し、5億円に及ぶ地方交付金を拠出するかもしれないという朗報が舞い込む。上昇気流に乗る圭太は、イチジクのブランドイメージを高めるため、町の広告塔として宣伝に努めていた。

 そんな中で、事件が起きる。圭太と、 幼なじみの田辺純(松山ケンイチ)、島の新米巡査の守屋真一郎(神木隆之介)が、島に入り込んだ不審者ともみ合いになり、イチジク園のビニールハウスの中で誤って死なせてしまうのだ。そして3人が選んだ道は、隠蔽だった。

 不審者が死んだのは、どう見ても正当防衛の結果であり、3人に非があるとは思えない。だから「3人が隠蔽に走るのは不自然だ」と、最初は思った。しかし、ストーリーが進むうちに合点が来た。考えてみれば、この忌まわしい事件は、猪狩島の唯一のブランドであるイチジクの生産現場で起きたわけだ。「もし事件が明るみになれば、ブランドイメージは地に落ち、島の未来は閉ざされる。正当防衛であろうとなかろうと、イチジクによる町起こし計画は崩壊する。だから隠蔽するしかない」。不審者の死体を前にした圭太らの脳裏をよぎったのは、こうした危機意識だった。

 こうした3人の前に立ちはだかるのが、愛知県警が島に派遣した捜査員の畠山(永瀬正敏)らだ。畠山は、礼状なしで無断に私有地に入り込み、違法捜査を繰り広げた。ありがちな雑な演出かと思ったが、これについても、観るうちにストンと落ちた。畠山は、島民に強烈な差別意識を持っていたのだ。強引な捜査への反感を強める島民をみて「こんな過疎の町はいずれなくなるんだよ」という趣旨の悪態をつく畠山。人権も尊厳も認めない県警の態度に怒り、圭太の事件隠蔽に協力する多数の島民。物語はこの両者の対決を軸に、ヤマ場へと突き進む。

 そう、ここまで観れば、誰もが島民を大応援したくなるストーリーなのだ。「一人一人の私益を守るためでなく、町の宝であるイチジクのブランドイメージを守るため、隠さざるを得ない」ー。こうした「犯行動機」からは、国からも都市からも打ち捨てられた過疎地住民の切なすぎる思いと悲哀が読み取れる。「島民よ、負けるな!」と叫びたくなる。

 物語は、圭太と同じく猪狩島で育ち、巡査として猪狩島に戻った真一郎(神木隆之介)が悲劇的な選択をするシーンでクライマックスを迎える。神木君、演技うまいよ。本当に。今回も涙腺を攻められました。

 クライマックスの後も話が続くが、やや間延びした感があった。神木君の神演技をラストシーンにした方が、自分的には良かった。軽く流すのもよし、深読みするのもよし。それなりに楽しめる一本だった。
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