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3つの鍵のSPNminacoのレビュー・感想・評価

3つの鍵(2021年製作の映画)
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車を止めようとした妊婦、女性を撥ねた飲酒運転の車、そして家に突っ込んだ車の目前にいた少女。そこから一気に3家族の不幸の連鎖が加速していく。
みな同じアパートの住人、事故現場は目の前。登場人物はそれぞれに問題を抱えている。けどどこか過剰にベタな展開で、特に若い孫娘なんかそりゃないだろうと、ドラマのための恣意的なキャラクター。それは敢えて狭い場所に凝縮した、寓話のような群像劇として一歩引いた視点だからだろう。ナンニ・モレッティは親子や夫婦、人間関係に辛辣だ。孤立した人々を他人事のように冷たく描写する(一番冷たいキャラクターを演じるのがモレッティだし)。
しかも、さあどうなる?と思わせて時間を省略してしまう。どうなるかは目に見えてるから。事実を受け止められなかったり、一方的な行動で事態を悪化させたりするのは、家族でも顔見知り同士でもお互いに信用がないから。でも自省や謝罪なしに仲直りなんかできる訳ない。同じ屋根の下で断絶を露わにして、一人、また一人と歯が抜けるようにアパートを去っていく。
ただ、やっぱりそこには他人を思う余裕がなく、保身のため心に鍵をかけてしまう社会への批判がある。社会全体から家族へ伝わる歪みが、結果的に子どもや弱い者を傷つけるのだと。モレッティはいつも大真面目なのだ。
だからこそ、終盤「償い」と言って寛容に他者を招く人物が初めて現れる。すると、長い間欠けていたピースがやっとはまっていく。そして「3つの鍵」で心を開いた時、家族がバラバラになって空部屋が広がるあのアパートの現場は、人々が踊る明るい祝祭空間になるのだった。
マルゲリータ・ブイ、リッカルド・スカルマチョ、アルバ・ロルヴァルケルとイタリア映画オールスター競演で、モレッティの悲観主義で楽観的な寓話は、色々雑なところもあるけどとてもわかりやすくモラリスティック。しかしアルバさん(イタリアのアンドレア・ライズボロー)が常に不穏すぎて、そこだけ別の映画みたいだったよ…カラス怖すぎ。
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