ぜりー

ニトラム/NITRAMのぜりーのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
4.3
視聴後に残ったのは、悲しさ、やるせなさ。どう受け止めたらいいか分からない映画でした。そして、こうも簡単に人を殺すための道具“銃”を買える社会に末恐ろしさを感じました。

何が、誰が悪かったのか。この事件を止めるにはどうしたら良かったのか。そういったことは分かりませんでした。分かったのは、自分の苦しみに寄り添ってくれる人の存在がこんなにも尊いものだということ。そして、自分なりの優しさが相手に伝わっているかどうか分からないということ。福祉に携わる仕事をしているので、その点でも考えさせられる作品でした。

クラクション、虫の羽音、銃声、車の衝撃音などの大きくて不快な音。散らかった部屋。主人公に対する世間の冷ややかな目。田舎のぼんやりとした閉塞感。車を運転するときの舐め回すようなカメラワーク。
そういった一つ一つの描写が、最後の最悪の展開を予感させます。しかし、最後のシーンは呆気なく終わります。じわりじわりと追い詰められ、まるで、苦しみのジェットコースターに乗せられたような気分でした。

何よりも良かったのは主人公の演技です。演じている感じが全くなく、圧倒的なリアリティをもって作品を見ることができました。彼の自然体な演技なくして、この作品は成立しなかったと思います。

丁寧に作られた、非常に完成度の高い作品でした。視聴直後は、こんなに苦しくなる作品もう見たくない!と思っていましたが、今は、もう一度見て、今度はしっかりとこの作品のメッセージを受け止めたいと思っています。
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