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パリ13区のtakのレビュー・感想・評価

パリ13区(2021年製作の映画)
4.1
映画観た後に無性に人恋しくなることがある。映画館を出て誰かの声が聞きたいと思ったり、特定の誰かを思い出してとっくに手元にないはずのつながりを感じられるのものを探してみたり。

「パリ13区」も僕にはそんな映画だった。でも他の映画と違うのは、触覚を刺激されたような気持ちになったこと。別にセックスシーンのせいじゃない。文字通りのふれあいを求める気持ち。「ノマドランド」を観た後で感じたどうしようもない寂しさじゃなくって、「パリ13区」ラストシーンのサラリとした幸福感がそんな気持ちにしてくれた。この映画を観終えた今の気持ちを分かってくれる誰かがいてくれたらなぁ。でもこういう映画は大抵一人で浸ってしまう。

この映画でも描かれるように、誰かとつながろうと思えば、いろんな手段がある昨今。広告を見てルームシェアで一緒に暮らすこと、とりあえずのセックス、出会い系アプリで誰か相手を探すこと。お金さえ払えば元ポルノスターがオンラインの画面越しにいいことしてくれる。でも本当に愛し合える相手とつながれるかは別問題。この映画は様々な人種の人々が暮らすパリ13区で、心からつながれる誰かと巡り合うまでの物語。

モノクロの映像がとても優しく感じられる。ウディ・アレンの「マンハッタン」と同様にスタイリッシュだが、それ以上に登場人物を見つめる僕らの視線を変えてくれる。登場するのは、台湾系のエミリー、アフリカ系のカミーユ、フランス人のノラ。キャスティングにあたり人種への配慮があったのかもしれないが、色彩を取り除いたことで人種偏見を緩和する意図があったのかもしれない。その分だけ男女が抱き合う場面ではコントラストがハッキリして、異なる個性が触れ合っているニュアンスが際立つ。果たしてこのつながりは、愛し合えるつながりになれるのだろうか。

エミリーと再び会いたいとカミーユが言い出すあたりから入り乱れる恋模様。でもついた離れたを繰り返すドロドロの恋愛ドラマを観る感覚じゃなく、愛を探す迷子の大人たちの気持ちの行方から目が離せない。元ポルノスターのアンジーとノラが次第に親しくなっていく様子に、こっちまで癒される気がする。

ラストは二つの場面で締めくくられる。インターフォン越しに告げられたひと言。
「聞こえない!もう一度言って!」
その後の表情。もう一つは逆光の中で横顔が重なる美しいシーン。ハリウッドのラブコメで感じる多幸感とは違う、じわーっとくる感覚。これが長く続く関係になりうるのかは別として、少なくとそれぞれが愛と呼べそうなものを見つけたのだ。

 ◇

U-NEXTの鑑賞履歴を見た配偶者。絶対にミニシアター系は観ない人。
👩🏻「どんなエロい映画観たのよ。」
この映画を観終えた僕が望んでいるのは、そんな声かけじゃないんだよなぁー😩。
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