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コンパートメントNo.6のEyesworthのレビュー・感想・評価

コンパートメントNo.6(2021年製作の映画)
4.6
【旅は道連れ世は情け】

フィンランドの新鋭ユホ・クオスマネン監督が同国の作家ロサ・リクソムの小説を基に撮りあげた長編第2作となるロードムービー。

〈あらすじ〉
1990年代のモスクワ。フィンランドからの留学生ラウラは恋人と一緒に世界最北端駅ムルマンスクのペトログリフ(岩面彫刻)を見に行く予定だったが、恋人に突然断られ1人で出発することに。寝台列車の6号客室に乗り合わせたのはロシア人の炭鉱労働者リョーハで、ラウラは彼の粗野な言動や失礼な態度にうんざりする。しかし長い旅を続ける中で、2人は互いの不器用な優しさや魅力に気づき始める…。

〈所感〉
『ビフォア・サンライズ』のように列車の乗り合わせから始まる何の変哲もないラブストーリーかなと単純に思って見ていたら、恋愛模様の雲行きが怪しくなったり、目的に翳りが出てきたりと上手く進行しないのがまさに厳冬の北欧紀行といった感じでとてもよく描けていた。旅において、ある程度こうなるだろうな、というプランから逸脱してしまった時、人は不快感を感じるものだ。同時にそれが思いもよらない最高の出会いにも繋がったりすることもある。既定路線からの逸脱によるセレンディピティ、それこそが旅の醍醐味だ。ラウラにとってはパートナーの女性にドタキャンされた上、デリカシーのない見知らぬロシア人男性リョーハと同乗したことが既に計画の範疇外であり、出鼻をくじかれた形だった。ラウラは最初こそ何こいつ!ストーカーみたいに付きまとってきて気持ち悪っ!!というあからさまな態度をリョーハにとっていたが、最後までラウラの旅に付き添ってくれるロシアの広大な面積のような寛容な精神の持ち主であることに気付いたのか徐々に彼に惹かれ始めていく。リョーハの助けもあって、ラストで彼女の旅の目的であるペトログリフ(岩面彫刻)を見ることに成功したが、それが実際どんなものだったのか、苦労してまで見る価値のあるものだったのか、我々にはわからないのがまた良い。彼女の旅の収穫は彼女だけのものであって我々には無関係だからだ。厳しく冷たいロシアの風景と淡々としたやり取りのみの列車内がマッチしていて好きな作風だった。
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