MasaichiYaguchi

バケモンのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

バケモン(2021年製作の映画)
3.7
テレビ番組の企画・構成・演出を手掛けてきた山根真吾監督が、落語家・笑福亭鶴瓶師匠を17年間に亘って追ったドキュメンタリーは、バラエティー番組では分からない鶴瓶師匠の落語家としての矜持や芸に対する取組み、他人に対する優しさが、そのルーツを交えて描かれていく。
そもそもは、2004年に鶴瓶師匠の落語「らくだ」を無許可で撮影した時に、山根監督はその内容に衝撃を受け、正式に申し込んで自主制作として撮影を開始したことに始まる。
ステージから楽屋、打ち上げやファンを含めた様々な人たちとの交流まで、ゴールを決めないままの密着撮影は約1600時間に及び、それを1本の映画として完成させたものが本作である。
そして2020年、コロナ禍でエンタテインメントが次々と中止になる中、鶴瓶師匠は「らくだ」で再び全国ツアーを開始する。
本作で披露される演目は幾つかあるが、その中で中心となって取り上げられているのが「らくだ」で、鶴瓶さんの師匠にあたる6代目笑福亭松鶴が得意としたもので評価も高い。
噺自体は「らくだ」と呼ばれた人物の遺体を使って「かんかんのう」を踊らせる等をして、大家をはじめとした人々から金品や、酒と料理を脅し取る二人組を描いている。
だから「らくだ」は死を笑い飛ばす強烈なパワーに満ちた噺といえると思うが、鶴瓶師匠は演じるごとに噺を進化させていっている。
本作を観ると、単なる落語という枠組みを超え、エンターテインメントとして演じる鶴瓶師匠の公演を生で体感してみたくなります。