幽斎

アイス・ロードの幽斎のレビュー・感想・評価

アイス・ロード(2021年製作の映画)
3.8
「Ice Road」寒冷地で凍結した湖沼や海氷上に作られた道路。孤立地域への陸送や航空便より安価に運ぶ他、大きくて重い貨物も輸送出来る。ロケ地のカナダは世界最古のアイスロード発祥の地。Tジョイ京都で鑑賞。

Liam Neeson、70歳の出演ラッシュには皆さんも疑問に思うだろう。彼は出生地の北アイルランドに人一倍の思い入れが有り、過去にアメリカの市民権を得た時も赤裸々な思いを吐露してた。イギリス王室からOBE大英帝国勲章が授与されたが、死別したNatasha Richardsonの母親はイギリスの大女優Vanessa Redgrave。彼ほどの人気俳優でスキャンダルが1㎜も無いのは当たり前かもしれないが、凄い。独身を貫く彼は今日も何処かで支援する北アイルランドの為に、撮影に挑んでるだろう。

本作はJonathan Hensleigh監督の持ち込み企画。彼を有名にしたのは「アルマゲドン」原案者だが、ソレも眉唾で先に映画化が進んでた「ディープ・インパクト」科学考証に基づいて彗星衝突のシュミレーションを描く事を知り、アクションに切り替え16週間と言う超短期間で製作して二番煎じ批判を回避。ゴールデンラズベリー最低作品賞ノミネート。皆さん大好きな(笑)「I Don't Want to Miss a Thing」アカデミー歌曲賞とゴールデンラズベリー最低主題歌賞にノミネート。私もアルマゲドンはクソ映画の代表格と思ってる。

その後も細々とキャリアを重ねるが前作「キル・ザ・ギャング 36回の爆破でも死ななかった男」彼にしては出来は良かったのにマーケットの反応は最悪、ハリウッドから遠ざかる。10年振りに起死回生の脚本を仕上げだが、ハリウッドは見向きもしない。其処で登場したのが彼の妻、Gale Anne Hurd。最初の旦那はJames Cameronだが不倫がバレて「ターミネーター」権利を慰謝料代わりに貰う。次に結婚したBrian De Palmaも僅か2年で破局。そして「ジュマンジ」脚本で一山当てた監督と結婚。彼女に尻を叩かれ自主制作も辞さずアイス・ロード・プロダクションズを設立して勝負に出た。

監督の人望よりも妻のコネでプロデューサー20名から資金を掻き集めLiam Neeson、Laurence Fishburne、Benjamin Walkerとハリウッドの一線級の俳優が揃って完成したが、ソレでも配給が決まらない。映画祭への出展も叶わず夫婦共々破産を覚悟した所に知らない番号から電話が鳴る、それがNetflix。北米配信権を1800万$で買うと約束。これで全米批評家協会賞にエントリー、Neesonは男優賞候補。やっぱり時代は配信ですね(笑)。

監督の作品は良く言えば「鉄板」だが、やはりと言うべきか本作もパクリ癖は治らず、プロットを聞いただけで大傑作スリラー「恐怖の報酬」そのまんま。ダイナマイトがアイスロードに代わっただけ、既視感の誹りは免れない。キャラクターの描き方も相変わらず類型的、本作にしか無いフレッシュも見当たらない。Neesonが本作に出演したのは、カナダのファースト・ネーションズを描いたから。私の様なスリラー派は、一本道で捻りの無い脚本に良い顔は出来ない。監督もマズいと思ったのか後半に「マッドマックス」を付け足したが、それもどうよ?(笑)。

アイスロードと言う斬新なシチュエーションで押し切れないのが監督の才能の限界だと断じて終わろうとしたが、同じ作品を見た友人は少し意見が異なる。私の仕事は建物から外へ出る事は無く日焼けの心配も無い(笑)。友人は同級生で、劇場で観たのは昨年の11月だが、府の公務員で冬を前に道路工事で忙しい。彼が言うには現場の描き方はリアルで良い。例えば爆発を見て咄嗟に引き返して作業員が緊急ボタンを押す、労働者の技能を淡々と見せるのは、仕事に対する敬意も感じる。ディティールに拘るのは同じでも、やはり人が違えば視点も違う。

その視点を加味すると「事件は現場で起きてるんだ!」労働者の叫びも聞こえる。言われて見ればアクションでも顔のアップを多用せず、臨場感を煽る演出も少ない。台詞では無く態度で示す事で、労働者に対するリスペクトも伺える。それで思い出したのが「バブルヘッド」何で有るのか分かった時にスリラーしてると感心したわ。労働者は自分と家族の為に働いてる。経営陣は保身一直線だが、我々は会社の尻拭いの為に働いてるんじゃない!。何気に社会派のテーマも見つかった。色々言ったけど、監督やるじゃん(笑)。

労働者目線と言えばClint Eastwood監督、92歳!。刑事映画で一世を風靡した彼は、監督に回っても現場第一主義で、無駄なプロットを削ぎ落す事で知られる。主人公はこう言う性格だからあんな事をする、設定を簡潔明瞭にする事で映画としての情緒を差し挟む余地を残さず、ディズニーの様にお仕着せで泣かせる事も無く「淡々と」描いてる。シンプルさこそ監督の腕が試され、成功した暁には力強いタッチに映る。本作に其処までの胆力はないが、労働者目線で労働者を語る事には意義と意味が有る。職業倫理とか連帯感をストレートに描く事で、私には見えない景色が見えた気がした。

残暑の続く中で現場で働く労働者の皆さま、お疲れ様です。本作を観て明日への活力に!。
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