キッチー

戦場のピアニストのキッチーのレビュー・感想・評価

戦場のピアニスト(2002年製作の映画)
4.2
1939年ポーランド、ワルシャワ。
両親や兄弟姉妹と引き離され、単身で逃亡するユダヤ人ピアニストのウワディスワフ・シュピルマン。彼の実話に基づく物語。

映画を観て、彼が何のために過酷な逃亡生活を続けられたのか、例えばもう一度ピアノを弾きたいからだとか下世話なことを考えてしまうけど、現実で生への大きなハードルが目の前にあれば、綺麗事ではなく、ただ生きるために行動するというのがリアルなのかもしれない。

しっかりした画面構成、こんな悲惨な状況を伝えているのに美しさすら感じてしまう映像。そしてシュピルマンが弾くショパンは力強くも美しい。前に観た「水の中のナイフ」「テス」でも感じたポランスキー監督の洗練された芸術的表現が今作でも感じられました。
監督も少年時代にゲットーに強制移住させられたユダヤ人で、同じように脱走し生き延びた経験を持つ、だからこそ余計に伝えたいテーマだったんですね。

ストーリーは、
ワルシャワの放送局でピアニストとして曲を届ける仕事をしていたシュピルマンが、ナチスドイツの干渉を受け、強制移住や強制労働を強いられ、様々な自由の制限され、奪われてていく。シュピルマンには両親や兄弟姉妹がいたが、引き離され、単身でゲットーから逃げることに...その後もナチスから逃れるため、隠れて逃亡を続けるが、協力者たちにも魔の手が延びてくる。最後に逃げ込んだ廃屋にはピアノがあったが、最大の危機が訪れる...
といった内容

シュピルマンが多くの協力者に助けてもらえたのは、間違いなく彼が多くの人々から愛されたピアニストだったことが理由ですが、隠れている身の上ではピアノがあっても音を出すことが出来ません。でも、エアでピアノを弾くと彼の脳裏にピアノの音が甦ってくるんですよね。素敵なシーンでした。彼を演じたエイドリアン・ブロディは優しい顔立ちでしたが、逃亡生活で変貌していきます。でも、彼の真面目で優しそうな感じは喪われず、牽かれました。彼の他の作品も観てみたくなりました。

ところで、いつもなんでユダヤ人は一方的にやられっぱなしだったんだろうと思っていたのですが、この映画では徐々にナチスにからめとられるユダヤ人たちを描いていて多少は理解出来たような気がしました。
まず、ユダヤ人を見分ける腕章を着けさせ、次にゲットーなるユダヤ人居住区に隔離する。そして大小様々な規制で少しずつ自由を剥ぎ取っていく。巧妙にやられてしまったんですね。まだまだ自由があるうちに蜂起すれば違う展開になったかもしれないのに...こういう形でやられてしまうとどうにもならないのかも。まさか、大量虐殺が待っているなんて想像も出来なかったのでしょう。人権に対する考え方も全然違う人たち...恐ろしいです。

自分たちの常識を超えた人たちも存在しているのだということも知っておくこと、大事だと思いました。
キッチー

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