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THE MOLE(ザ・モール)のpamphmanのレビュー・感想・評価

THE MOLE(ザ・モール)(2020年製作の映画)
5.0
今年公開の『シャン・チー』には好きなシーンがたくさんあって、例えばホテルの利用客が預けた高級車を勝手に乗り回すところはケイティとシャン・チーの二人が自分達の仕事を退屈に感じていて、ここではないどこかへ行くことを望んでいるのを暗に示していたように思う。そうだったからこそ、その後に出会う非日常、異世界へ自然と順応できたわけだ。

映画監督のマッツ・ブリュガーはデンマークの料理人ウルリクから、北朝鮮へ潜入するスパイになりたいとのメールを受け取る。彼はブリュガーの北朝鮮を揶揄ったドキュメンタリー『レッド・チャペル』を見てコンタクトを取ってみたらしく、明確な理由は映画では語られないが、刺激を求めてそんな決断をしたようだ。そして、10年もの間ウルリクは妻子に告げずスパイ活動を続ける。

何も知らずに観たのでセス・ローゲンとジェームズ・フランコが北朝鮮を茶化したコメディThe Interviewのようなものだと思っていると開始早々ガチだと気づいた。北朝鮮の武器取引を捉えた衝撃映像でもあるし、漂っている空気感は『シチズンフォー スノーデンの暴露』にも近いが、一般市民がスパイになる瞬間を捉えた貴重な映像とも言える。ウルリクはやる気はあるようで、途中で訓練まで受けさせられる。全く平気なのかと思えば緊張感から吐きそうにもなる。この完全にスパイになりきれない様が相手をどこかで安心させたのかもしれない。最後のある瞬間は私は直視できなかった。

ただ、観終わって思い返すと、全部フィクションのように見えてくる。スペインにいる北朝鮮のシンパや元軍人の経営者などはキャラが立ちすぎているが、実在するようだ。チラシには100%本物と書かれている。北はフェイクだと主張しているので、この映画に関わった人間に危害を加えると本当だと逆に証明してしまうことになるのだろう。パンフに書かれていた彼らのその後にも驚いた。

この映画をフェイクドキュメンタリーとして、観客に見せたらどういう反応になるのか。危険な人体実験だが。シャーリーズ・セロンが実在の殺人犯を演じた『モンスター』の映像と本物の殺人犯の映像を何も知らない人に見せたら、どちらを本当と思うか。フェイクニュースの見極めと脳科学の分野に関わってくる話だけど。
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