きざにいちゃん

くじらびとのきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

くじらびと(2021年製作の映画)
3.5
普段、ナショジオとか、アニプラを好んでみる方ではないが、映画館で予告編を見て、「ヒューマンドキュメンタリー」として興味が湧いて大スクリーンで鑑賞。

エヴァの海のように流血で海を真っ赤に染めてのたうち回る鯨を殺してゆく現場の映像は残酷極まりないが、正に文字通りの命懸けの狩りで、迫力は凄い。
「自分たちは鯨を殺し、鯨と共に生きるのだ」
というラマファの言葉には、命の幸、鯨の命への畏れと敬いというか、鯨を狩ることが経済であるだけでなく、神事であるかのような厳かさも感じる。
一方、日本では2019年に31年ぶりに再開された商業捕鯨は水産庁からの補助金漬けになり、排他的経済水域に限るはずの漁場から遠く離れた南極海にまで行けるオーバースペックの捕鯨船を建造しようとしている。SDGsが聞いて呆れるような、村人たちとは反対に命に対する敬意も何も感じさせない恥ずかしい状況にある。
(だいたい、政治家や企業経営者で胸にSDGsのあの輪環バッジを付けている輩に限って、足元の経済しか見ていないという偏見を、自分は持ってます)

考えさせられる映画ではあったけど、疑問点が二つ。
ひとつは、鯨捕りのお父さんもお母さんも息子のエーメンに「金のことは何とかするから進学しなさい」と説くところ。自分のような鯨捕りにはしたくないということか…このラマレラ村では一流の銛打ち(ラマファ)になるのがよしとされる訳ではないのか…
実は村人たちは今の暮らしよりも文化的で裕福な暮らしを望んでいるのか…
そのあたりのことは作品の中ではそれ以上触れられていないので、もしかしたらこの映画は、彼らと異なる目線で、彼らの暮らしぶりを美化してしまっているのではないのか、という一抹の不安を覚えたこと。

もう一つは、この作品の石川梵氏同様、同じ村人たちを90年代から追っているアメリカ人ジャーナリストのタブ・ボック・クラーク氏がいて、『ラマレラ 最後のクジラの民』という書籍も出していること。
この鯨捕りの人々のルポルタージュとしての独自性やこの映画のユニークネスというのはどんな位置にあるのだろう、というようなちょっとしたモヤモヤを感じたところである。