りょう

The Son/息子のりょうのレビュー・感想・評価

The Son/息子(2022年製作の映画)
4.2
 このポスタービジュアルには完全に騙されます。こんな辛辣な物語だとは思いもせず、「なんでニコラスの心情をはっきり描かないのか」という疑問からはじまり、彼の言動が妙にブレる(感情に波がある)ところは、中盤あたりまで不自然でした。
 前作の「ファーザー」のようなトリックがあるんじゃないかと思いはじめたところで、その違和感がなくなり、終盤の展開でスッキリさせられます。その結末があまりに悲劇的なので、清々しさからは程遠い感情でしたが…。
 実際にニコラスのような境遇の息子を理解しようとする両親の言動は、あんなふうにしかならないだろうし、ニコラスを客観視する父親の視点から描く映像表現が秀逸です。「ファーザー」を踏襲する構造ですが、当事者の1人称だった前作と比較すると既視感はありません。
 「ファーザー」と共通するのは、 “ブルー”と“グリーン”が映像を圧倒的に支配する色彩です。登場人物のファッションや室内のアイテム、街中の構造物に至るまで…。これは単純に監督の嗜好なんでしょうか。それとも何かのメタファーなのか…。いろいろと端折る演出も含めて、この“余白”は嫌いではありません。
 ここからネタバレになってしまうかもしれませんが、精神医療の現実も痛感させられます。日本の実態でイメージしてしまうからかもしれませんが、長期の措置入院や身体拘束など、人権侵害が蔓延していることを想像すると、まるでピーターの判断が正しかったような錯覚にもなりました。
 ただ、この父親と息子の関係がうまくいかなかった根本的な原因は、父親の自己中心的な人生観などにあったとしか思えません。子どもを養育する“義務”を放棄しながらも、不倫相手の女性と新しい人生を築く“権利”があると主張するシーンには唖然とさせられたし、ビジネスで自己実現を追求しつつ、ほとんど家族を顧みてこなかったマチズモ的な雰囲気も否定できません。そんな元夫と温和な人間関係を継続しているケイトの心情も理解しづらいものでした。
 フローリアン・ゼレール監督の次作は“The Mother”になるそうです。どんな作品になるのか期待しかありません。ニコラスの心情を繊細に表現したゼン・マグラスも活躍していくことでしょう。
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