どらどら

流浪の月のどらどらのレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
4.6
- 更紗は、更紗だけのものだ。誰の好きにもさせちゃいけない。

正しさはときに、人を殺す
誰かにとっての正しさが
誰かにとっての切実さを、殺す

それぞれがそれぞれの切実な生を生きている
それはときに重なり合うけれど、本質的にバラバラのままだ
それなのに、そのバラバラさが、ときに耐えられない
だから自分の切実さを振りかざす
それがいかに暴力的だとしても

私たちは誰とも「繋がれない」
それでも、2人の真実は2人だけのものであり
それは観客たる私たちも手の届かない場所であり
2人は、2人の生を生きる
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李相日×凪良ゆう×広瀬すず×松坂桃李
完璧な布陣で撮られた本作の意味をまだ計りかねている
安易な理解も共感も拒む峻厳さに貫かれた本作は、この映画を見て何かそれらしい教訓めいたことを引き出すことさえも拒む
ただ2人は2人だけの真実を抱えて生きてきて、これからも生きていく
それ以上でも以下でもないのかもしれない

映画はあらゆる人物を無罪にしない
文の「うちくる?」という能動性の発露- それがたとえ善意だったとしても-を見逃さない
更紗-亮関係における更紗の加害性、さらには文の人生を破壊すると理解してなお踏み込んだ更紗の加害性- それがいかに切実であったとしても- を確かに画面に捉える
その上で組み立てられた本作は、その誠実さゆえに、安易なフレームワークでの理解を拒むのである
だからこそ、この映画の意味を計りかねる
そのうえで、その峻厳さにある種の恐れを抱きながら、私たちは自分の生に戻るしかないのかもしれない
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広瀬すず、松坂桃李は序盤、徹底して感情を抑制する
しかし、そこから滲み出てくる感情の残り香のようなものが漂い続け、映画の世界に引き込まれていき、世界には更紗と文しかいないかのような錯覚さえ覚える
しかし、彼らの感情が溢水点を超えた瞬間を映画は確かに捉える
「許す?私はあなたに何を許してもらうの?」という更紗
「もうやめてくれ」と叫ぶことしかできない文
そして2人が真の意味で人生を分かち合った瞬間の重み
全てが、胸にのしかかる

新境地を見せつけた横浜流星
我々の視点を、その醜悪さも含めて代弁する多部未華子

彼らの生を背負って私たちは私たちの生活に戻るしかない
どらどら

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