しん

流浪の月のしんのレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
4.7
広瀬すずが圧倒的な演技をし、松坂桃李が全力でそれに応える。脇を固める横浜流星や多部未華子も素晴らしい。役者の演技だけを見ても、近年の邦画ではベストに近い評価ができる傑作。

作品描写も素晴らしい。安直に主人公たちへの同情を誘うわけではなく、周囲の無理解を切り捨てるのでもなく、単純にバランスを取っただけの平板な作品でもない。徹底的に人物に寄り添った演出やストーリーは、誰に対しても全面的に信頼をおけず、かといって誰かを完全な悪者にもできないという、人間社会のリアルを完璧なまでに描ききっていた。

小児性愛、監禁、共依存など、安易な言葉で語ると、ありきたりな作品ように思えてくる。しかしそんな言葉の暴力性を、本作は強く深く抉ってくる。しかし私たちがそこから完全に離脱できるわけではない。不快感、バイアス、他者への攻撃性など、どれも社会的動物である人間が必然的に備えてしまっているものである。そのグロテスクさをこれでもかと描きながら、しかしそこにある人間性に目を向け、愛で包み込んだストーリーには、最大限の拍手を送りたい。

ラストシーンだけ要らなかった気もする。しかしそんな批判は些細なものである。「複雑なままに真実を受け入れろ。分かったと思うな。分からないと投げ出すな。眺めろ。人は美しい」。そんな叫びが聞こえてくる、傑作中の傑作です。
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