家庭に問題を抱えて「家に帰りたくない」と言う少女更紗を自分の家に招き、共に過ごした大学生の文。それが誘拐事件として扱われ、離れ離れになった2人。それから十数年経ち、再会した2人の姿を描いたヒューマンドラマ。
公開当時から気になっていた本作。松坂桃李と広瀬すずのW主演というキャスト面での話題性も抜群。でも内容は想像以上に暗く、重苦しいものでした。
複雑な家庭環境で家にも居場所がない更紗。誰にも打ち明けられない秘密を抱えて孤独に生きる文。偶然の出会いから互いに大切な存在になる2人。でも世間では誘拐事件とされて、2人は引き離され被害者と加害者のように映されてしまう。
背景を知れば知るほど切なさが増幅していく流れで、その分更紗を演じる広瀬すずの演技力の強さが感じられます。世間からどう見られようと、嫉妬に狂った恋人にDVを受けても文と共に過ごしていきたい思いが痛いくらい伝わってきました。
そして松坂桃李の笑顔をほぼ見せない心に影を落とした表情は全編に渡って冴え渡っていますし、終盤での秘密を吐露する場面でのインパクトも凄みがあります。やはり主演2人の力はメチャクチャ大きいと思わされましたね。
更紗の恋人を演じた横浜流星の荒んでいく姿も個人的にかなり良かったところ。前半はエリートサラリーマンのようなのに、更紗が文に心を持っていかれそうになってからの身も心も荒ぶっていく様子は流石でした。
大袈裟に煽るような演出は無く、音楽も控えめ。静かな作風だけど確かに感じる登場人物たちの心の叫び。仄かな苦さと希望が同居するラストも不思議な余韻が残ります。決して明るい映画ではありませんが、見応えは十分ある作品だと思います。
